韓国社会「女性の生きづらさ」 若者、コロナに追い込まれた末に…

西日本新聞 国際面 池田 郷

 韓国で20代の女性の自殺が増加している。自殺予防対策に携わる医師らによると、新型コロナウイルスの流行に伴う経済危機の中、非正規雇用などの不安定な境遇の女性が死を選ぶ傾向がみられるという。コロナ禍前から若年女性の自殺は増加傾向にあり、20代の女性芸能人や運動選手の相次ぐ自殺も社会問題化。女性の社会進出が進む一方、社会に根強い伝統的な家族観や職業観に縛られる若年女性の苦悩も垣間見える。

 「誰とも話をしない日がある」。ソウルで独り暮らしをしているアルバイトの女性(28)は、8月から大学病院の精神科でカウンセリングを受けている。コロナ流行後、孤独感を募らせていたという。

 女性はカフェで働きながら劇団活動に打ち込んでいた。感染の拡大は、舞台に立つ喜びと生計を得るすべを奪った。劇団の公演中止が続き、8月にはバイトも辞めた。ソウルでは同月、感染の再拡大を受けて個人営業を除く喫茶店は店内飲食が禁じられ、来客が急減した多くの店が従業員を大幅に減らした。

 女性は「コロナの流行は終わりが見えないことがとてもつらい」と嘆く。

 2020年上半期に韓国で自殺した女性は、1924人で前年同期比7・1%増。これに対して男性は4354人と数では上回るが、6・1%減っている。

 ソウル市によると、特に20代女性の自殺が昨年の2倍のペースで増加。政府が設置する中央自殺予防センターも「医療現場から、若い女性の自殺未遂が増えたという報告が上がっている」として注視しており、詳しい分析を進めている。

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 「男女とも全世代が感染拡大の経済的な打撃を受けているが、もともと経済基盤が弱い若年女性がさらに苦しい状況に追い込まれているのだろう」。ソウル市自殺予防センターの金鉉洙(キムヒョンス)センター長は指摘する。

 数字が窮状を物語る。韓国銀行によると、コロナ感染拡大後の3~7月の一時休職者数は女性が101万6千人に上り、男性の60万8千人を大きく上回った。休職者が増えたのは、若年女性が多い店舗対面販売員や飲食店員などが目立つ。

 韓国では男女を問わず若者の就職難が深刻だ。文在寅(ムンジェイン)政権は17年5月の発足後、35歳未満を正社員に新規採用した中小企業に1人当たり年間最大900万ウォン(約81万円)を支給する制度などを導入したが、目立った改善には至っていない。

 大企業との待遇格差が日本より大きい中小企業への就職は敬遠される。このため大学をあえて留年したり、外国語学校に通ったりしてでも、大企業や公務員を目指す若者が多い。こうした若者たちのような潜在的失業者を含めた「拡張失業率」は、15~29歳で26・6%に達する。

 「20代」「非正規」「独り暮らし」-。ソウル市自殺予防センターが、若い女性の自殺増加と関連してクレジットカードの支払い遅延者の属性を調べると、そんなキーワードが浮かび上がった。不動産や株への投資で潤う一部富裕層と、経済的に困窮する大半の若年層の格差が広がっている。

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 韓国社会における「女性の生きづらさ」も、若い女性の自殺増加の背景として影を落としている。

 現在25~34歳の女性は大卒の割合が70%を超す。母親世代の55~64歳は15%足らずにとどまり、家族観や職業観に大きな違いがある。職場に行けば、家事の多くを妻に委ねてきた世代の上司や、専業主婦の母親に育てられた同世代の男性に「昔ながらの女性の役割」を押しつけられがちだ。

 韓国では08年、家父長を尊重する戸主制度を廃止するなど女性の人権向上を促す法整備が進んだ。しかし韓国メディアで記者として働く女性(29)は「若い女性のジェンダー意識は急速に変化したが、家庭や職場で接する多くの人たちは変化に追いついてない」と、同世代の思いを代弁する。

 性被害を告発し撲滅を訴える「#MeToo」の盛り上がりも、旧態依然とした男性社会の空気が色濃いことの裏返しに映る。女性の人権を重視する政策を掲げる革新系与党の男性政治家に、セクハラを巡る疑惑や事件が後を絶たない。

 韓国の統計庁は8月、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が19年に0・92だったと発表した。日本を上回るペースで進む少子化は、非婚主義の女性の増加が大きな要因とされる。厳しい雇用状況の中で自活を迫られ、社会的に孤立しがちな若年女性が苦悩を深める姿が浮かび上がる。

 (ソウル池田郷)

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