今時の「保守と革新」考 小出浩樹

西日本新聞 オピニオン面 小出 浩樹

 安倍晋三前首相の辞任表明から1カ月になる。この間、印象に残った論考の一つに「野党が6回負けた」(今月2日、毎日新聞)がある。

 筆者は苅部直(かるべただし)東京大教授(日本政治思想史)だ。8年近く続いた政権ではなく、リベラル(革新)派の野党陣営はその間、なぜ国政選挙で連戦連敗したかに焦点を当てた。

 この疑問を素朴に抱き続けた国民は、私を含めて多いのではないか。さまざまに評価される安倍政権は、とりわけ集団的自衛権の限定的行使容認で野党の批判を浴び、一時的には支持率を落とした。

 苅部氏は「根本的な問題」として、こう分析する。<1960年の日米安保条約改定に反対し、岸信介首相を退陣に追い込んだ一国平和主義の「革新派」コンセンサスの力が、国民全体の意識においては既に崩壊している><中国や北朝鮮が突き付ける危機の現実に、構想も示さない野党を国民は信頼しない>

 苅部氏は安倍氏を礼賛する保守論客ではない。戦後リベラル論壇を主導した岩波書店の「オタク」である。私の手元にある「物語 岩波書店百年史3」(2013年、同社刊)に、著者としてそう書いている。ただしここでも、日米安保に否定的な岩波の80年代の論調は「既に説得力を失っていた」と指摘した。

 確かに、そもそも日米安保条約は、先の大戦の教訓から国連憲章51条が加盟国に認めた集団的自衛権の保有と行使を、その是非はともかく明記している。

 もちろん集団であれ個別であれ自衛権の暴走は許さない-。多くの国民はそう認識した上で、国家の基本政策さえ明確に伝え切れない野党には付き合わなかった、というのが私の解釈でもある。

 もっとも最近、保守と革新という概念の揺れを指摘する声は大きい。改憲阻止という共産党が保守で、改憲や改革をうたう自民党が革新だと見る若者の傾向を示すデータもある。それらイデオロギーの根底にあった東西冷戦の終結から30年もたつのだから、当然の流れとも言えるだろう。

 少し古いが「リベラルは共闘下手?」と題する野党の離合集散に関する論考(昨年7月、朝日新聞)も興味深かった。著述家の浅羽通明さんは「リベラル派は知識人。自分が一番頭がいいと思っているので衝突する」と考察した。

 読んでいて、学生時代、友人でもあった左翼セクト諸氏による果てなき論争を思い出した。やや自虐的にまとめれば、こんなテーマのコラムを書くこと自体、既に時代遅れなのだろうか。 (特別論説委員)

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