『君が君で君だ』「姫」追い10年 恋に不器用な男たち、異形の一途さ

西日本新聞 吉田 昭一郎

フクオカ☆シネマペディア(5)

 普通のファンクラブと明らかに違う。不干渉がおきてだから、ぎりぎりストーカーではないだろう。共通の女性に心を寄せる若者3人が、彼女の住まいのそばにアパートの一室を借り、10年間も見守り続けた先の騒動を描く「君が君で君だ」(2018年)。シリアスとコメディーが混然一体となった、尋常ではないハイテンション恋愛物語だ。

 福岡県出身で、舞台や「クリープハイプ」のミュージックビデオの演出など、多彩に活躍する松居大悟監督作品。

 その女性は韓国人のソン(キム・コッピ)。歌手を目指し借金を抱える恋人を支えようと店員などとして働く。3人は、ソンを「姫」と呼び、彼女が好きな有名人になりきって結集し、アパートの一室で「ソンを守るためだけの国」をつくる。「尾崎豊」(池松壮亮)と「ブラッド・ピット」(満島真之介)、「坂本龍馬」(大倉孝二)をそれぞれ名乗る3人がやることといったら、ソンの部屋をのぞいてその一挙手一投足を追うことだけだ。

 ひそかに尾行して動静を追い、スナップ写真を隠し撮りする。かわいい写真を皆で眺めてはウォーと大声で盛り上がる。壁は数多くの写真で埋まっている。常にそばにいて、ソンの気持ちを深く理解するのが生きがいのようだ。

 建国10年。不干渉のおきてを揺るがす事態が相次ぐ。ソンが借金がかさむ恋人を助けようとキャバクラで働き始めると、竜馬が「やめさせたい」と会いに行こうとする。しかし、2人に縛られ拘束される。ソンが失踪・放浪したのに続き、自室で自殺を図ろうとするに至ると、助けに行くべきか、行かざるべきか、いよいよ大騒動だ。

 中でも、どんなことがあっても不干渉を貫こうとする尾崎豊の異形の愛がすごい。常にソンと同一化し、たとえば、女性の下着をつけて、悩んだ時に指をかむソンの癖を自らなぞっては血をにじませるほどだ。

 ソンの全てを見てきて、醜悪な面でも何でも全てを受け入れ、ソンの全てが分かっているという自負が尾崎にはあるようだ。ソンの恋人にソンになりきって激しく詰め寄ったりする。しかし、直接、思いを伝えることはできないでいる。

 鬼気迫る尾崎の一途さは、恋に不器用な男の片思いを深掘りしてデフォルメしたものではないか。内に秘めて激しかったり、ゆがんだり、自縄自縛したり、妄想を膨らませたり…。どこか分かるのである。

 強烈なパッションを爆発させる池松の演技には、すごみがある。自ら原作・脚本を手掛けた松居監督は、親交があった同じ福岡出身の池松と組んで、かつて見たことがない恋愛世界をつくり上げた。

 「ソンを守るためだけの国」のどたばた劇は、思い詰めた先に千々に乱れる男の心の内面そのままに違いない。果たして、彼らは不干渉のおきてを守り続けることができるのか…。(吉田昭一郎)

※この企画は毎週月曜の正午に更新しています

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