不安で眠れぬ夜も…コロナ禍「最期は家族と」支える 訪問看護の現場

西日本新聞 くらし面 田中 良治 梅本 邦明

働き支える コロナ禍のくらし〈下〉 訪問看護師の女性(50代) 福岡県

 緊急事態宣言が出ていた4月下旬ごろ、半年前から訪問看護を続ける80代女性のがんが悪化した。既に多くの病院が入院患者との面会を制限していた。女性は「家族と会えなくなる」と在宅療養の継続を望んだ。

 ほどなく女性は発熱が続くようになった。医師の見立てはがんの症状。PCR検査は受けなかった。だが職場内には「本当に新型コロナウイルスじゃないと?」と動揺が広がった。マスクやエプロンなど医療用の防護具は既に手に入らなくなっていた。

 それでも意を決した。100円ショップで見つけたレインコートをまとい、ゴーグル代わりにだて眼鏡を着けて女性宅へ通った。点滴で栄養を補給し、痛みを緩和する薬剤を投与する。おむつを替え、体を拭く。重装備のまま1時間半の処置。熱が下がるまで約3週間、同僚と交代で続けた。

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 訪問看護ステーションで働き始めて20年。もともとは病院勤務だったが「患者ともっと向き合い、望まれる看護をしたい」と今の職場を選んだ。慢性疾患の患者や重度障害者たちが安心して在宅療養できるよう、介護など関連の職種と協力して処置に当たる。

 コロナ禍が本格化した後も、利用者は「あなたたちを信じているから」と家に上げてくれる。その言葉は素直にうれしい。だが自身が媒介となって重症化しやすい患者や高齢者に感染を広げないか、責任は重い。

 ごみ袋でエプロンを作り、フェイスシールドの作り方はネットで調べた。同僚は美容院でもらったパーマ用キャップをかぶり頭髪も防護した。

 訪問先に着いたところで、家族から「熱があるので、明日PCR検査を受ける」と告げられたこともある。患者は認知症のある70代女性。「もし陽性だったら」。恐ろしかったが、同僚と2人、自作のエプロンとフェイスシールドを装着し、床ずれの処置をした。その日は帰宅後、真っ先にシャワーを浴びた。夜、不安で眠れなかった。

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 がんが悪化し、約3週間発熱が続いた女性は7月に亡くなった。介護のため関東から帰省していた息子が声を掛けてきた。「皆さんのおかげで自宅で母をみとることができました。ありがとうございました」。お互いに深々と頭を下げた。

 医療資材が手に入りにくい状況は今も変わらない。感染の不安はつきまとう。だが自分たちがひるめば、患者や家族はどうなるのか。現場を離れるわけにはいかない。 (田中良治)

■「訪問看護した」25.3%

 日本訪問看護財団(東京)が6月、全国の訪問看護ステーションの管理者に実施した調査(回答372件)によると、新型コロナウイルス感染症の疑いがある人などに訪問看護を行ったと答えたのは全体の25.3%。スタッフに感染(疑い含む)や濃厚接触者が出たのは5.8%だった。スタッフから精神的不安の訴えがあったステーションは48.9%。そのうち最も多かったのは「新型コロナに対する恐怖心」で、「防護具が足りず不安」「気分が落ち込む」などが続いた。

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