学術会議の人事 任命権の乱用は許されぬ

 政府の意に沿わない学者は任命権を行使して排除する。そんな意図を秘めた拒否であれば、不当な権力の乱用にほかならない。推薦通り任命すべきだ。

 学問の立場から政策を提言する政府機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補105人のうち6人の任命を、菅義偉首相が見送ったことが分かった。現行制度になった2004年度以降、推薦候補が任命されなかったのは初めてだ。

 なぜ首相はこの6人に限って任命しなかったのか。政府はその理由や基準を一切明らかにしていない。前代未聞の任命拒否をしておきながら、国民に対する説明責任に背を向ける菅政権の姿勢は問題である。

 6人の顔触れや経歴を概観すれば、おぼろげながら共通項は思い浮かぶ。政府が自分らにとって「好ましからざる人物」と勝手に判断したのではないか、という推測が成り立つ。

 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案について国会で参考人として「戦後最悪の治安立法」と批判した▽野党推薦で出席した安全保障関連法案の中央公聴会で「憲法9条に反する」と廃案を主張した▽沖縄県名護市辺野古の埋め立てを巡り防衛省の行政不服審査法に基づく審査請求と効力停止の申し立てを却下するよう求める声明を発表した▽「特定秘密保護法案に反対する学者の会」を結成し、廃案を求める声明を発表した-といった言動である。

 政府の方針や法案に異を唱える学者は今後、日本学術会議の会員に任命しない。もし、そんな前例をつくって批判封じの圧力をかける狙いだとすれば、言語道断と言うほかない。

 それは邪推だと言うのであれば、政府は任命を拒んだ理由をきちんと説明すべきだろう。

 日本学術会議は1949年に設立された。太平洋戦争で科学者が戦争遂行に動員され、協力したことへの反省を原点とし、政府から独立した立場で科学を行政や産業、国民生活に生かす目的で活動をしている。

 戦争を目的とする科学研究を行わないという声明を出し、防衛省の軍事研究に大学の研究機関などが参加することにも「政府介入が著しく、問題が多い」と指摘したことがある。

 法的には首相の管轄下にある政府機関の一つだが、組織の性格上、政府からの独立性が重要であることは言うまでもない。その独立性が脅かされないか、憂慮せざるを得ない。加藤勝信官房長官は「人事上の問題で理由は回答できない」と説明を拒んでいる。国民が納得する説明を任命権者の首相に求めたい。

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