川辺川ダム揺れる民意…白紙撤回から12年

熊本知事「11月に治水策」

 7月の豪雨災害を契機に、かつて熊本県の蒲島郁夫知事が「白紙撤回」した川辺川ダム建設を巡る議論が再燃している。発端は、国が8月の検証委員会で提示した「ダムがあれば被害は軽減できた」とする推計結果。蒲島氏は治水対策として「ダムも選択肢の一つ」との構えで、年内に新たな判断を表明する。

 「11月末までに治水計画を示すことで、住民の皆さんも将来の計画ができるのではないか」。蒲島氏は9月下旬、甚大な被害を受けた人吉市を視察した際にこう述べた。

 県南部の球磨川流域は1963年から3年連続で水害が発生。特に65年の家屋の損壊と流失は1281棟に及び、人吉市街地の3分の2が浸水した。そこで国は66年、最大の支流川辺川へのダム建設を発表。「5~10年に1度」の洪水にしか耐えられない治水安全度を一気に「80年に1度」に向上させる計画だ。

 ダムの用地取得は98%完了し、水没予定地の五木村では移転対象549世帯のうち、1世帯を除いてすべてが移転。水没する道路の付け替え道路は9割が完成。かかった費用は概算事業費約3300億円の6割に当たる約2100億円に達していた。

 だが、大型公共事業への反発なども相まって「脱ダム」の機運が高まり、蒲島氏は初当選した2008年、「球磨川そのものが守るべき宝」として白紙撤回。翌09年に前原誠司国土交通相(当時)が中止を表明した。

 代わりに国や県、流域市町村は「ダムによらない治水」を検討。国は19年、堤防かさ上げや放水路設置などを組み合わせた10の治水案を提案した。しかし、治水安全度の目標は「20~30年に1度」とダムに及ばず、費用1兆円、工期100~200年をつぎ込む案はまとまらなかった。

 この間、行われた対策は宅地のかさ上げなど一部に限られる。「5~10年に1度」の洪水にしか耐えられないままだった流域は今年7月、「戦後最大規模」の豪雨で壊滅的な被害を受けた。死者65人のうち浸水による犠牲は50人に上る。流域市町村は9月、国と県に「ダムを含めた抜本的な治水」の早期実施を要請した。一方、ダム反対派の動きも活発化している。

 蒲島氏は白紙撤回を表明した県議会での演説で、「未来の民意」にも言及していた。「再びダム治水を望んだ場合、すでに確保されているダム予定地が活用されることになる」。被災地の惨状を目にした蒲島氏が、12年後の民意とどう向き合うのか注目される。 (古川努)

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