始まりはお花見 キリン一番搾り「糖質ゼロ化」実現の舞台裏 

西日本新聞 経済面 布谷 真基

 1日の酒税法改正で減税されたビールを巡って新たな競争が生まれようとしている。発泡酒や「第三のビール」と呼ばれる新ジャンルの登場もあり、ビール出荷量が減少傾向にある中、キリンビールが約5年の歳月をかけて日本初の糖質ゼロビール「一番搾り 糖質ゼロ」の開発に成功し、6日に全国で発売する。業界で画期的といわれるビールの糖質ゼロ技術は、どのようにして誕生したのか。

 「糖質ゼロ」の開発プロジェクトが発足したのは2015年。布施孝之社長が就任した年で、社内でも極秘扱いとされた。

 ビールでは実現困難と考えられてきたが、社内の研究所に所属していた広政あい子さん(39)が「糖質を限りなくゼロにする技術開発に取り組みたい」と申し出たのが始まりだった。

 広政さんは育児休業中に保護者の集まりで花見をした際、ビール好きという別の保護者が「体形が気になるからビールは1杯だけ」と残念そうに語るのを耳にした。これを機に「気兼ねなく飲めるビールをつくりたい」と考えたという。

 ビールは麦芽使用率が高く、糖質をゼロにするのは至難の業とされてきた。糖質はアルコールを生む重要な鍵を握る。麦芽使用率が低い発泡酒などでは、糖質を低減する技術はほぼ確立されていたが、ビールでは前例がなかった。広政さんは「すべての技術を一から見直すようなものだった」と振り返る。

 ビールづくりでは、麦芽に含まれる「でんぷん」が酵素の働きで糖質に分解され、それを酵母が食べることでアルコールが生成される。ただし、酵母はすべての糖質を食べ切れず、大きな糖質が残るのが課題だった。そこで麦芽の選定を見直し、糖質をより細かく分解できる技術を磨くことで、酵母が糖質を食べ尽くせる環境を整えた。

 酵母も通常より厳しく管理された活発なものを使用するようにした。こうした試験醸造は計350回にも及び、うち60回は一番搾りブランドにふさわしい「おいしさ」を確保するために繰り返した実験。一番搾りのマーケティングを担当する鈴木郁真さん(38)は「おいしくできなかったら商品化する意味がなかった」と胸を張る。

 今回の酒税法改正で、ビールの税率は350ミリリットル当たり77円から70円に下がった。新型コロナウイルスの流行拡大を機に、消費者の健康志向が高まったこともあり、キリンは糖質ゼロを「一番搾り」の2本目の柱に育てたい考えだ。定番の一番搾りと比べ、100ミリリットル当たりのエネルギーは17キロカロリーカット。炭水化物は2・1グラム低減している。

 「一番搾り 糖質ゼロ」は、350ミリリットル缶と500ミリリットル缶の2種類。価格帯は通常の一番搾りと同じで、製造は取手(茨城県)、名古屋、岡山の3工場だが、生産量拡大が決まれば福岡工場(福岡県朝倉市)での製造も検討するという。 (布谷真基)

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