冷めきらないトランプ氏への期待感 約束守った「最高の大統領」

西日本新聞 国際面

混沌ラストベルト~米大統領選直前ルポ(2)

 米中西部ウィスコンシン州から次に向かったのは550キロ先のミシガン州デトロイト。一帯に自動車大手の本社や工場が点在する「自動車の街」だ。

 9月19日、自動車工場の労働者が多く住む郊外のマコーム郡で出迎えてくれたのは、フォード・モーターの部品工場で働いて24年になるネルソン・ウェストリクさん(45)。トランプ大統領が就任100日を迎える直前の2017年4月に取材して以来の再会だ。

 自宅ガレージには、前回はなかったピックアップトラックが止まっていた。「このトラックの部品を工場で作っている。中古だけど買ったんだ」と目を細め、こう続けた。「暮らし向きは良くなったよ」

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 16年の大統領選時には、ラストベルト(さびた工業地帯)から自動車工場などが海外へ流出するなど、苦境が続く製造業の国内回帰を約束したトランプ氏を信じ、1票を投じた。民主党の支持基盤である労働組合の方針に反した彼のような白人男性が、大接戦となったミシガンでトランプ氏勝利の原動力となったといわれている。

 トランプ政権の3年半で減税、ガソリン安、住宅ローンの金利低下といった恩恵を受けた。休日返上で時間外労働もいとわず、年収は1千万円を超えた。「貯金ができて、家族と海外旅行にも行けた」。そう語る表情は充実感であふれる。

 「それもこれもトランプが減税や環境規制緩和などの公約を貫き通したからだ。人生最高の大統領だよ」

 ただ自動車メーカーの苦戦は続く。デトロイト近郊の他の自動車工場では最近も一時解雇があった。国内工場の移転先であるメキシコなどとの北米自由貿易協定(NAFTA)を見直した新協定が発効したものの、国内製造業への波及効果は定かではない。

 それでもウェストリクさんは、トランプ氏に引き続き、国内製造業の復活を託す。「メキシコや中国から来る安い製品にもっと関税を課せばいいんだ」

 4年前に比べ、トランプ氏の名前入りシャツを堂々と着る彼のような岩盤支持層が職場にも増えた。「実は俺もトランプ(支持)なんだ」と打ち明ける“隠れトランプ”もいる。「マコーム郡は民主党支持者が多いが、またトランプが勝つよ」と笑ってみせた。

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 「私が41年間働いた工場にもトランプ支持の組合員がかなりいた。でも公約とは正反対のことが起きた」

 ビデオ通話での取材に応じたティム・オハラさん(61)はかつて、デトロイトから340キロ離れた中西部オハイオ州ローズタウンにあったゼネラル・モーターズ(GM)工場の労組トップだった。

 最盛期には1万人を超す従業員がいたという工場は19年に閉鎖。大統領就任後、トランプ氏は近くの街で演説し「雇用は戻る」「家は売るな」と訴えたが、オハラさんは自宅をやむなく売却し、州外に引っ越した。

 「トランプは製造業復活を訴えているが『労働者の味方』と見せかけているのにすぎない。経済政策は砂上の楼閣だ」。工場閉鎖はGMの経営判断とはいえ、トランプ氏は労働者を裏切ったと憤る。

 しかし、こうした失望がどこまで広がっているかは分からない。前回のトランプ氏への投票を「失敗」と悔いる元同僚がいると信じているが「多くのトランプ支持者は考えを変えないのでは」とも思う。

 ローズタウンでは、敷地内に雑草が生える元GM工場の近くで大型の建設工事が進んでいた。ランチ営業中のバーに立ち寄ると、男性店員から「どこの会社の人?」と声を掛けられた。

 聞けば、工場を買い取った新興企業がトラック型電気自動車(EV)の生産を計画し、周辺では別の企業がEV用電池工場を建設中という。見込まれる雇用は、GM工場稼働時には遠く及ばない見通しだが、最近は建設作業員や企業関係者の来店が増え、地域の将来に明るい兆しも感じているという。

 住宅街でトランプ氏の選挙用看板をよく見かけたと伝えると、店員は言った。「支持は割れているが、トランプ支持者は依然多い」

 トランプ氏への期待感はまだ冷め切ってはいない。

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