時効の壁、泣き寝入りも…無保険車と事故 被害者の苦悩

西日本新聞 社会面 玉置 采也加

賠償困難、弁護士も苦悩

 交通事故の相手が任意保険未加入で、治療費や車の修理費の補償を十分受けられないことがある。九州は佐賀を除く6県が、任意保険と共済の普及率が全国平均より低く、全国ワースト10に3県が入る。さらに、法律で加入が義務付けられる自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)にさえ入っていないドライバーも一部に見られ、補償金を得られないまま後遺症や心理的負担に苦しみ続ける事故被害者もいる。

 9月4日、福岡地裁久留米支部は、福岡県大刀洗町に住んでいた元代行運転手の男(36)に、自動車運転処罰法違反(過失運転傷害)などの罪で懲役2年6月、執行猶予5年の判決を言い渡した。

 判決によると、男は昨年8月29日夕、左右をよく確認せずに同県小郡市の交差点に進入し、60代女性の乗用車に衝突した。同乗していた女性の30代の娘は、低酸素脳症などで、今も意識が戻らず入院している。男は自賠責保険、任意保険に入らず、無車検の乗用車を運転していた。

 事故後、男は知人から軽乗用車を購入、車中泊を始めた。車検や自賠責保険が切れ、免許停止処分を受けた後も乗り続けた。男は所在不明となり、公判は滞った。今年6月22日、小郡市で男は道交法違反(無免許)の疑いで現行犯逮捕され、同法違反などの罪も合わせて今回の判決が出た。

時効の壁、泣き寝入りも

 無保険車と事故に遭った被害者の裁判を年間10件前後担当し、交通事故裁判に詳しい山口真彦弁護士(福岡県弁護士会)は、被害者に重い後遺症があった今回のような事案では「相手の職業や対応によっては1億円程度の賠償金を請求してもおかしくない」とみる。

 だが被害者家族は、総額1千万円の賠償金を月4万円ずつ男が支払う条件で示談した。厳罰は求めず「早く社会復帰して可能な範囲で払ってほしい」との思いが家族にはあったという。

 背景には、加害者が判明して5年たつと賠償金請求の時効を迎えることもありそうだ。無保険のドライバーは支払い能力が低いことが多く、行方をくらまし時効が来ることも。このため今回の示談も、男が支払い可能な内容になったようだ。

 判決は「実刑に処することも十分に考えられる」としつつ、元雇い主が男を再雇用し更生を支えると約束した点も考慮。「損害賠償責任を果たさせるのが相当」と執行猶予を付けた。

「逃げ得」許すな

 損害保険料率算出機構によると昨年3月末時点の全国の任意保険・共済普及率(対人賠償)は88・2%。九州7県では佐賀の89・9%以外は全国を下回り、鹿児島はワースト2位、宮崎も同4位で大分は同8位。

 山口弁護士によると、賠償金を十分得られないため、自賠責保険未加入者を相手取る依頼を弁護士が断ることもある。被害者の任意保険に弁護士費用補償の特約がない案件では顕著という。「逃げ得」を許さない内容の示談書を作るにも、弁護士なしでは困難で泣き寝入りする被害者も多い。

 自衛策はあるのか。山口弁護士は「いつどんな相手と事故になるか分からない」と、人身傷害保険や無保険車傷害保険加入などの備えを呼び掛けている。

(玉置采也加)

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