「川辺川ダムあれば越水9割減」 熊本豪雨検証委で国が推計値公表

 7月豪雨で氾濫した熊本県南部の球磨川について国土交通省九州地方整備局は6日、県庁で開いた県、流域12市町村との第2回検証委員会で、支流での建設計画が中止された川辺川ダムがあった場合の「治水効果」を公表した。完全には氾濫を防げなかったとする一方、人吉市や隣接する球磨村の一部であふれ出た水量を9割抑えられ、浸水面積は実際の4割にとどめられた、とした。

 検証委はこれで終了。国、県、流域市町村は具体的な「治水対策」を検討する別の会議を設ける。蒲島郁夫知事は今回の検証結果を「科学的根拠」として対策の方向性を示す方針。時期については委員会終了後の取材に対し「年内の早いうち」と述べた。

 この日の検証委で国が示した人吉市付近での氾濫水量の推計は約5200万トン。川辺川ダムがあればこれを約600万トンに抑制でき、その結果、約569ヘクタールだった浸水面積を約223ヘクタールに減らすことができた、と結論付けた。

 人吉市では家屋の2階付近に達する3メートル以上の浸水が約224ヘクタールに及んだ。だが、推計を当てはめれば1割の約25ヘクタールにとどまり、床上浸水した国宝「青井阿蘇神社」も被害を免れた可能性があったという。

 川辺川ダムは国が1966年に計画を発表。2008年に蒲島氏が「白紙撤回」し、09年に国が建設中止を表明。今年7月の豪雨災害や検証委の推計を受け、ダムによる治水に方針を戻すべきかどうか議論が再燃している。

ダムの効果強調、リスクに触れず

 球磨川氾濫を巡る検証委員会で国土交通省九州地方整備局は、川辺川ダムがあった場合の「効果」を強調する一方、想定を超えた豪雨時の緊急放流など「リスク」には触れなかった。未曽有の災害が起きる昨今、住民も正しくリスクを理解することが大切だと考える識者らは、ダムがあれば安心との「神話」を懸念する。

 川辺川ダムは「80年に1度」の豪雨で見込まれる毎秒3520トンの流入を想定した設計。7月豪雨時の流入は3千トンと推計され、許容範囲に収まる。だが九地整によると、地形などからダムに流れ込む計算上の水量は最大で毎秒5160トンとしている。

 ダムは満杯になった場合、流れ込む量と同じ分だけ放流することでバランスを保つ仕組み。仮に川辺川に5160トンを放流した場合、下流域では多大な浸水被害が発生する恐れがある。

 2019年の台風19号では国交省管轄の6ダムが緊急放流した。小松利光九州大名誉教授(防災工学)も1億トン近い川辺川ダムの貯水能力に注目し「ダムなし治水より、確実に減災につながる」と強調する。

 一方、18年の西日本豪雨では愛媛県にあるダムの緊急放流後、下流の8人が濁流の犠牲になるなどリスクも伴う。3年前の九州豪雨では福岡県朝倉市の寺内ダムが緊急放流寸前に追い込まれた。

 市の担当者は、ダムが貯水中は避難行動が可能であることなどメリットを挙げ、放流で浸水するエリアなど事前に情報を周知する必要性を指摘。「住民はどこに避難すればいいのか判断できない。限界と効果の両方を知っておくべきだ」としている。

(古川努)

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