「めんどくさい」は幸せへの近道 映画「弁当の日」が伝えること

西日本新聞 くらし面

 映画「弁当の日 『めんどくさい』は幸せへの近道」が完成した。「大人は決して手伝わないで」というルールの下、子ども自らが台所に立ち、自分の弁当を作る食育活動を題材にしたドキュメンタリー作品。「食事作りは親の役割」という社会環境で育った子どもたちが、「自分で作る」チャンスを得たとき、本人や家族の中に芽生える成長や気付きを、笑いや涙を交えて描いている。

 映画は、著書「はなちゃんのみそ汁」(文藝春秋)で知られる安武信吾さんの初監督作品。西日本新聞が長期企画「食卓の向こう側」の中で、「子どもが作る『弁当の日』」の活動を取り上げた14年前、関心を抱いた。

 この活動は、香川県の滝宮(たきのみや)小校長だった竹下和男さんが、2001年に提唱して始まった。「台所仕事が楽しいという気持ちは、子育てが楽しいという気持ちに直結する。次世代が幸せに育つ世の中にしたい」。そんな竹下さんの信念に基づいている。

 これに共感した安武さん。「はなちゃんのみそ汁」の著者として招かれた講演会などで、その意義を伝え続ける中で、映画化の構想が生まれた。「弁当の日」を実践した学校や家庭の様子を、1年半かけてカメラで追った。

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 撮影に選んだ現場には、それぞれ特色がある。「弁当を作ってこられない家庭の子どもたちは、どうするのか」という疑問に、「年に1回の弁当持参もできない家庭があるなら、それがやるべき理由だ」と実践を決めた中学。「生徒にやらせるなら、まず教師が楽しさや意義を感じよう」と教員だけの「弁当の日」から始めた中学。授業で食について学び、自炊回数を評価基準に導入した大学。

 保育園児や小学生も登場するが、ストーリーの中心は中学生や大学生。印象的だったのは、生徒や学生が台所に立つ機会を持つことで、家族内でお互いに、感謝や思いやりの気持ちを表現する機会が増えていたことだ。

 例えば、ある女子中学生のストーリーは、こうだ。

 弁当作りを「最初は面倒くさいと思った」と振り返る。しかも、初めての「弁当の日」は親子げんか中だった。母と一緒に台所に立つことで仲直りのきっかけをつかめ、料理も好きになったと打ち明ける。

 2回目の「弁当の日」は新型コロナウイルス感染拡大に伴う休校で見送られるのだが、彼女は仕事に出かける母親に慣れた様子で弁当を作る。手渡す時のはにかんだ笑顔と、「こんなことができるようになったなんて」と目を輝かせる母の笑顔。「弁当の日」がなかったら、お互い出合えなかった表情かもしれない。

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 20年かけて全国約2400校に実践が広がった今、子どもを台所に立たせることでどんな効果を生み出したいのか、活動の狙いがあいまいになり、形骸化した現場も増えている。

 自炊できず菓子を食事代わりにする大学生。子どもを給食や外食を頼りに育てざるを得ない親。家でまともに食べられず、外に居場所を求めて非行や性のトラブルを繰り返す若者…。

 映画では、そうした問題の解決に「弁当の日」が力になると信じた、助産師や公務員、教員らが「なぜ、子どもから、台所に立つ機会を奪ってはいけないのか」を訴える。

 私自身は「手伝いはいいから勉強しとき」と言われて育ち、自炊ができないまま社会人になった。母親になった今も料理は義務感から。でも、「弁当の日」を経験した子どもの笑顔を見ては「やりたがる時がやらせ時。一人前になりたい成長期だからこそ、台所仕事が喜びになる」という竹下さんの言葉に納得する。

 体だけでなく心も育てる食。この映画を通して、大人も子どもも、料理を楽しく感じ、幸せに命をつむぐ人が増えるよう願う。

 (フリーライター渡辺美穂)

福岡市で31日に記念試写会、100組を招待

 西日本新聞社と映画「弁当の日」製作委員会は31日午後2時から、福岡市・天神のエルガーラホールで完成記念試写会(無料)を開く。鑑賞希望者100組(200人)を招待する。はがきに(1)住所(2)氏名(3)電話番号を明記し、〒810-8721、西日本新聞社企画開発部「弁当の日」試写会係へ申し込みを。応募者多数の場合は抽選。締め切りは12日(消印有効)。問い合わせは企画開発部=092(711)5430。

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