川辺川ダム論争 流域全体で総合的治水を

西日本新聞 オピニオン面

 国が熊本県南部で計画を進めながら地元の反対などで白紙に戻った川辺川ダム建設を巡り、議論が再燃している。今年7月の豪雨で川辺川の本流である球磨川が氾濫したためだ。

 国の計画発表から54年、中止決定からは11年が経過した。治水と環境保護のどちらを優先すべきなのか。そのはざまで計画は曲折を経てきた。

 ここ数年、従来の想定を超える大水害が頻発する中で、国民の意識も治水のあり方も変化を迫られている。ダムが必要か否かという限られたテーマにとどまることなく、治水のハード、ソフト両面での総合的対策を講じる議論に発展させたい。

 川辺川ダムの計画は1963年から3年連続で球磨川と川辺川が氾濫したことを教訓として66年に発表された。球磨川上流の市房ダムだけでは洪水調節の容量が足りないとの判断だ。

 今夏の豪雨災害を受けて国土交通省は先日、川辺川ダムがあった場合、球磨川の氾濫による洪水被害を軽減できたとするデータを発表した。ただ、これを疑問視する専門家もいる。

 雨量や河川の流量などをどう計算するかで、結果は異なる。明確なのは、ダムがあれば河川の流量を一定程度は抑制できる半面、それで氾濫を完全に防止できるとは言えないことだ。

 近年、大雨をもたらす積乱雲を次々に生む線状降水帯は発生速度が速く、予測も難しい。西日本豪雨や熊本県南部豪雨の被害を拡大させた要因でもある。

 ハード面の整備だけでは対応できない豪雨を発生させる環境の変化が進んでいると考えるべきだ。川辺川ダム計画も当初や中止決定当時と状況は異なる。もはや流域には氾濫を前提にした対策すら必要ではないか。

 専門家が提唱している「流域治水」は有効な手法の一つだ、と私たちは考える。ダムや堤防だけに頼る対策ではなく、中流や下流で田んぼやクリークをため池として利用したり、都市部に雨水をためる施設を建設したりするものだ。国も今夏、流域治水の重視に方針転換した。

 ダムは緊急放流による氾濫のリスクも伴う。流域治水の一手段と受け止めるべきだ。同時に市町村の防災計画を充実させ、住民防災組織を活性化させるといったソフト面も大切だ。

 防災とはいえ財源には限りがある。流域全体で総合的な治水に取り組めば、仮にダムを建設するにしても費用対効果を考慮した事業にできるはずだ。

 蒲島郁夫熊本県知事はかつて反対した川辺川ダム建設を「選択肢の一つ」と軌道修正し、近く新たな治水計画を示す。球磨川流域の12市町村全体に目配りした構想が肝要だ。

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