聴力を失ったベーシスト 「振動」に導かれて奏でる再起のジャズ

西日本新聞 社会面 長 美咲

 聴力を失いながらも、リズムを刻み続けるジャズベーシストがいる。福岡県大任町出身の吉本信行さん(63)=山口県下関市=は病気で30代から聴力が弱まり、音色を判別することができない。ただ、リズムは感じ取れるため、「失聴前に聴いていたメロディーを引き出すことで演奏はできる」。自信を深めるベーシストは10日、古里の福岡県筑豊地区でライブを開く。

 吉本さんは大学生の時にジャズ喫茶で聴いた躍動感のあるリズムに魅了され、ベースやギターを始めた。卒業後は下関市で不動産業を営みながら、ライブ活動を続けた。

 耳に不調を感じたのは30代後半。病院にかかっても聴力は落ちる一方で、50代前半に右耳、7年前には左耳も全く聞こえなくなった。原因は遺伝性のアレルギー疾患だった。

 音楽はもちろん、会話もままならなくなった。人と会うのを避け、音楽活動も諦めようとしていたある日、スマートフォンのスピーカーから出る音が、振動として指先に伝わってくることに気付く。聴力を失い、最も困ったのはリズムが分からないことだった。「振動を頼りに、演奏ができるかもしれない」と考えた。

 振動で一定のリズムを伝える機器「振動メトロノーム」を身に着け、練習を再開する。振動に合わせて、記憶しているメロディーを毎日弾いているうちに再び演奏できるようになった。

 6年前の手術で人工内耳を付け、メロディーまでは分からないが、メトロノームが刻む音は聴き取れるようになった。吉本さんのベースのリズムに共演者が音を重ねて曲を作り上げ、全国でライブ活動を再開した。米国やロシアでも演奏し、CDも発売した。

 「周りの音が聞こえないだけに、トレーニングは欠かせない。一度だけの人生を楽しむために音楽を続けていく」。動画投稿サイトユーチューブ」で演奏を配信するなど活動はさらに広がっている。

 ライブは10日午後3時から、福岡県嘉麻市のカフェ「森の中の秘密基地 sleepy cafe NICO」で。先着50人で要予約。入場料は2千円。(長美咲)

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