深まる対立「内乱」懸念も

西日本新聞 国際面 田中 伸幸

混沌ラストベルト~米大統領選直前ルポ(5)

 米国はカオス(混沌(こんとん))に陥っている-。今回取材で訪れたラストベルト(さびた工業地帯)の各地で何度も耳にした言葉だ。その言葉を象徴する光景が中西部ウィスコンシン州ケノーシャに広がっていた。

 自動車販売店の数十台の車は放火されて黒焦げとなり、被害防止のため窓ガラスや壁を木の板で覆ったままの商店も数多くあった。8月下旬に発生した警察官による黒人男性銃撃事件を受け、激しい暴動が起きた街にはその傷痕が生々しく残る。被害に遭った自動車販売店にはこんな張り紙があった。「何でこんな目に遭わなければならないんだ」

 街では自警団を名乗っていたと報じられる17歳の少年がデモ参加者に発砲し、2人が死亡する事件も起きた。暴動現場の近くで出会った黒人のエリザベス・ウェブさん(42)は「いつか21歳の息子や近所の子供も危険にさらされるのでは」と心が休まらない。

 暴動現場を視察したトランプ大統領は「国内テロ」と非難。対立をあおるような言動を繰り返す大統領に「カオスを生み出している張本人だ」と憤る。かといって、対立候補のバイデン前副大統領は黒人差別問題に取り組むと発言するものの「実際に何をしたいのか、よく分からない」。政治不信は募るばかりだ。

 今、何より心配しているのが選挙後のことだ。

 「法と秩序」を訴え、警察を全面的に支持するトランプ氏が再選すれば、警察官による黒人への暴行事件はなくならないだろう。警察を恐れる黒人の若者たちが自衛を名目に武装化してしまうのではないか-。こうした不安から「内乱」の2文字が脳裏によぎる。

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 「既に暴動は多発しており、内乱状態と言ってもおかしくない」。そう語るのは、東部ペンシルベニア州ウィルクスバリ近郊に住むトラック運転手ジョー・グランティードさん(64)。

 かつては民主党支持者だったが、雇用の悪化に有効策を打ち出せない党に嫌気が差し、前回の大統領選ではトランプ氏に投票した。今ではバイデン氏の集会会場近くで単身、抗議活動するほどの岩盤支持層だ。彼は「トランプ政権を妨害し続けた民主党が今回も負ければ、何をするか分からない」と危機感を強める。

 逆に、民主党支持者の間にはトランプ氏が負けても、熱烈な支持者たちが「選挙は不正だ」などと訴え、国中が大混乱に陥るとの警戒感が広がる。

 トランプ氏の当選から4年。国民間の分断は深刻さを増す一方だ。その原因を巡っては「共和、民主の二大政党制にある」との指摘をよく聞いた。ウィスコンシン州などの民主党支持者からは「隣のカナダのように中小政党が一定の力を持つ政治システムを考え始める時だ」との声も上がる。

 「反トランプのニュースがあまりにも多すぎることが対立をあおっている」(トランプ氏支持の男性)

 「大統領批判を偏向報道だと信じ、聞く耳を持たない方が正気を失っている」(バイデン氏支持の女性)

 二極化するメディア側の責任を追及する声も少なくない。トランプ氏の集会を取材中、開会を待つ参加者たちが特定のテレビ局を名指しして「最低」とののしる場面に何度も遭遇した。

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 解決策が見つからない現状を、ラストベルトの住人はどうみているのか。

 中西部ミシガン州モンローで取材した、リベラル系の若者グループに所属する黒人男性ゼイ・ターネッジさん(22)は「自分がやりたいことをやりたいだけする人があまりに多い。米国には今、他人への思いやりが欠けている」と語った。

 彼と仲間たちは、政権交代によって米国が融和への道を歩み始めると信じ、今回の大統領選を重大な岐路と位置付ける。

 計9日間、走行距離約4300キロに及んだ取材を終え、ワシントンに帰る途中、バイデン氏支持の看板と、警察への支持を示す青と黒の線が基調の国旗をモチーフとしたトランプ氏支持の看板が隣り合う住宅街を通り掛かった。

 「片方が勝てば、もう片方は幸せにはなれない。混乱は続くだろう」。グランティードさんが別れ際につぶやいた言葉が浮かんだ。 (ワシントン田中伸幸)

 =おわり

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