対立解消の糸口見えず…加藤官房長官が沖縄訪問、辺野古視察

 加藤勝信官房長官が就任後初めて沖縄県入りし、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、玉城(たまき)デニー知事と10日に会談した。菅義偉内閣が誕生して3週間。安倍政権の官房長官として、移設に沖縄振興予算を絡める「リンク論」を主導してきた菅氏がトップに就いたことで、地元に警戒感が広がるタイミングでの訪問だ。新型コロナウイルス禍で県内経済が冷え込み、政治情勢にも影響する中、菅政権はどう沖縄に向き合うのか。この日の加藤氏の訪問でも、対立解消の糸口は見えなかった。

 「県民の理解が得られない辺野古移設は断念し、県との協議の場を持ってほしい」「県経済はかつてない危機に直面している。振興予算の満額確保に特段の取り計らいを」。10日夕刻、県庁での会談で玉城氏はこう訴え、具体的な要望項目を記した文書を加藤氏に手渡した。開始前には、県の女性職員が加藤氏に就任祝いの花束を贈呈。友好ムードづくりに腐心する玉城氏の複雑な心中がのぞいた。

 これに対し、加藤氏の反応はにべもなかった。「唯一の解決策は辺野古移設」と従来の政府見解に終始。予算に関しても「確保に取り組んでいきたい」と多くを語らなかった。

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 菅氏は官房長官時代、リンク論にたびたび言及。2016年には記者会見で、移設に伴う跡地利用には振興策も含まれるとして「工事が進まなければ予算も少なくなるのは当然」と主張した。

 菅氏の姿勢は、政府の予算計上に如実に反映した。13年末、当時の仲井真弘多(ひろかず)知事が辺野古の埋め立てを承認する見返りに、政府は21年度まで毎年3千億円台の確保を約束。さらに14年度は、前年度比500億円増の3500億円とした。だが同年、辺野古移設に反対する故翁長雄志(おながたけし)氏が知事に就くと減額に転じ、18年度以降は3年連続で3010億円にとどめた。

 「約束」の21年度が迫る中、政府高官は「露骨なことはしないが、こちらの誠意には応えるべきだ」と県をけん制する。

 リンク論に対し、地元では「県民の心を金で買うのか」との反発が根強い。その憤りが2代続けて移設反対派の知事を誕生させた原動力にもなっている。普天間飛行場のそばに住む50代の自営業の男性は「沖縄はもともと全国の基地負担をかぶっている。予算を削るのは筋違いだ」と怒りをにじませる。

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 ただ、移設反対派も玉城氏を知事に押し上げた2年前ほどの勢いはない。主な要因はコロナ禍による経済の低迷だ。

 沖縄経済を支える観光産業。県の外郭団体は、今年の年間観光客数は前年から6割減り、観光収入も約5千億円失われると試算した。雇用も悪化し、8月の有効求人倍率0・67倍は全国最低に落ち込んだ。

 経済の悪化は、玉城氏の支持基盤を揺るがしている。6月の県議選で、玉城氏支持派は過半数は維持したが議席を減らし、自民党など移設容認派が拡大。県議会の勢力は伯仲となった。9月には、辺野古移設に反対する保革勢力を結集した「オール沖縄」の象徴的存在で、地元経済界の重鎮が玉城氏の後援会長を辞任。会長を務める企業グループのホテルが振るわず「本業に専念する」のが理由だ。

 移設反対派は混迷を深める。「経済で沖縄の民意は移ろう。景気が良いときは反基地派に、落ち込めば立て直しを求めて移設容認派に票が流れる。今が正念場だ」。玉城氏を支える県議は口元を引き締める。

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 加藤氏はこの日、住宅密集地にある普天間飛行場や埋め立てが続く辺野古沿岸部を視察。記者団がリンク論についての認識を問うとこう答え、政府のしたたかさをうかがわせた。「総合的に取り組むべき重要な政策課題という意味だ」

(一ノ宮史成、高田佳典、前田倫之)

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