【動画あり】「走る九州」もてなし凝縮 「36ぷらす3」16日運行開始

西日本新聞 九州経済面

 JR九州の新たな観光列車「36ぷらす3」が16日から運行を開始する。3年半ぶりの「新顔」で、九州各地を周遊するとあって注目度も日増しに高まる。本番に合わせた運行時刻や車内サービスで9日から行われた試運転に同乗すると、舞台裏から見えてきたのは三つの“おもてなし”だった。

■料理人の心意気

 36ぷらす3は曜日ごとに都市間を結ぶルートで運行する。乗客にとって車内での楽しみは「食」だろう。個室プランか座席プランかでメニューは異なるが、土曜日に運行する宮崎空港-別府間の座席プランでは、イタリア料理店「パッパカルボーネ」(宮崎市)が手掛ける弁当「宮崎の“わ”」が提供される。

 ふたを開けた瞬間から美しい。目を引くのは黒毛和牛のローストビーフや宮崎産野菜のマリネなどの鮮やかな色彩だ。沿線の旬の味覚が一箱にぎゅっと詰まっている。バラエティーに富んだ食材はもちろん、風味や食感も楽しい。考え抜かれたシェフの工夫が目と舌で感じられる。

 日曜日の大分-博多間の個室では老舗料亭、筑紫亭(大分県中津市)がお重「昼膳」を提供する。特産ハモの湯引きのほか、魚介のすり身揚げなど、うまみが口に広がる和の逸品ばかり。おかみの土生(はぶ)かおるさんは「必ず喜んでいただける仕上がり。食材はもちろん料理人の腕、心意気もばっちり」と自信を見せる。

■あの秘境駅停車

 鉄道旅の醍醐味(だいごみ)の一つは途中下車。土曜日のルートでは、1日3本しか列車が止まらない秘境駅として知られる宗太郎駅(大分県佐伯市)に特別停車する。ここでは36ぷらす3と同型の787系電車を使う特急「にちりん」と行き違う場面を見ることができる。鉄道愛好家もうなるマニアックな企画が組み込まれた。

 日曜日のルートでは、6年半の復元工事を経て大正時代の駅舎を再現した門司港駅(北九州市門司区)で途中下車できる。趣ある建物が立ち並ぶ門司港レトロや関門海峡を眺めながらの散策も可能だ。駅前では36ぷらす3の停車時刻にしか作動しない噴水ショーもあり、特別な気分に浸ることができそうだ。

 長ければ5時間以上にも及ぶ乗車。旅情を誘う車窓が近づくと客室乗務員のアナウンスが流れる。月曜日の博多-長崎間では、有明海と雲仙・普賢岳の遠景。金曜日の鹿児島中央-宮崎間では錦江湾と桜島が望める。大川組子をあしらった窓から見える景色は格別の時間を与えてくれる。

■地域の再発見に

 地元の人たちとの触れ合いも楽しい。金曜日のルートで停車する大隅大川原駅(鹿児島県曽於市)では、駅前に近くのカフェがキッチンカーで出店。運営会社の小野公裕さんは「観光列車の出迎えは、地域の良さを見つめるきっかけにもなる」。乗客向けにシカ肉とイノシシ肉の合いびきをパティに使ったジビエバーガーを販売するという。

 日曜日のルートで停車する杵築駅(大分県杵築市)には国東市観光協会が出店。国東半島の伝統行事で使われる鬼面をかたどった魔よけグッズを売る。市観光課の中野浄昭係長は「国東半島に根付く文化や歴史は奥が深く、物語性がある。国内外の人に親しんでもらいたい」と期待する。

 36ぷらす3のテーマは「ディスカバー九州」。沿線地域の良さを発見して光を当てる狙いがあるだけに、車内では特産品にスポットを当てたイベントを開く。鹿児島特産の黒酢飲み比べ、長崎街道を通じて伝わった金平糖の試食など乗客参加型の企画を用意。大分・大山産の梅を使った梅酒づくり体験は、熟成が終わる1年後まで楽しみが続く。

 JR九州鉄道事業本部の加藤邦忠営業課長は「九州を一周する列車で地域全体を盛り上げたい。地元や乗客と一緒に楽しみの輪を広げられる“走る九州”として育てたい」と意気込んだ。

起爆剤観光復活へ期待 7月豪雨被災 1ルート欠く

 「36ぷらす3」は、決して順風満帆な出発を迎えるわけではない。7月豪雨の影響で当面の間、木曜日の博多-鹿児島中央間の運行は見合わせる。乗り入れ予定の肥薩おれんじ鉄道で一部不通が続く影響だ。

 JR九州は車両デザインや物語性を高める観光列車を相次いで導入してきた。1989年の「ゆふいんの森」を皮切りに、九州新幹線の開業効果を九州全体に行き渡らせる狙いで、特に2000年代からさまざまな路線で特徴的な列車を投入してきた。

 “観光列車王国”と言われるJR九州も新型コロナウイルスの影響で今年は需要が低迷。全観光列車が運行休止した時期もあり、7月豪雨で肥薩線や久大線はなお不通区間がある。熊本-吉松間の「いさぶろう・しんぺい」は福岡県内の鹿児島線で代替運行するなどして急場をしのぐ。

 熊本地震から4年4カ月をかけて復旧した豊肥線の「あそぼーい!」が熊本-別府間を走るように刷新され、同区間の「九州横断特急」を観光列車の分類から外すなど一部再編も行われている。36ぷらす3は九州観光復活の起爆剤になれるのか。地域の期待も載せて発車を迎える。 (布谷真基)

   ◇    ◇

【ワードBOX】36ぷらす3

 特急「つばめ」などで活躍した787系の6両編成を全面的に改造し、つやがあるメタリックな黒い外観が特徴。列車名は九州が世界で36番目に大きな島であることなどにちなむ。「ぷらす3」は乗客、地域住民、JR九州を表し、「感謝=サンキュー(39)の輪を広げたい」との思いを込めた。全車グリーン席で個室と座席の2タイプ。6号車は靴を脱いでくつろげる畳敷きを採用した。寝台はない。九州7県を木曜~月曜に5日間かけて一周。料金は曜日により異なり、食事付きは大人1万2千円~3万円。

PR

社会 アクセスランキング

PR

注目のテーマ