ゲリラ農家の武器は 岩尾款

西日本新聞 オピニオン面 岩尾 款

 路上やイベントで突然演奏を披露するのをゲリラライブというが、この人は羽釜とまきでコメを炊いて振る舞う「ゲリラ炊飯」を仕掛ける。

 琵琶湖北端に接する滋賀県長浜市の若者グループ「ONE SLASH」代表の清水広行さん(34)。コメ中心に農業事業を進める。鍵は面白さ。農業体験会や「ジビエ村」などメンバーの技とアイデアを生かし、地域をアピールしていく手法はさながら「ゲリラ農家」とでも呼べようか。

 建設業の跡取り息子で、20代はスノーボード選手として国内外を転戦した。けがで前途を断たれ、家業に戻る前に経験を積もうと多様な事業を扱う会社に就職。その後、地元で働くことにした。周囲を見回すと、昔にぎやかだった祭りは閑散。「地域が死にかけている」と驚いた。「今の自分ができることは」と考えたとき、地域資源として気付いたのがコメだった。

 幼い頃から、故郷のコメは最高だと思っていた。うまさを示すデータを得ようと検査を依頼し、国内トップクラスの数値を得た。だがJAへ出荷すると、その他のコメと混ぜられ、地元の名は付かない。勤めながらコメを作っている地域の先輩に「今のままじゃ面白くないやろ!」と食ってかかった。

 自分たちで魅力を直接伝えようと始めたのがゲリラ炊飯だった。行列を作った親子連れから「おいしい」の声を聞き、自信を深めた。平均の約1・5倍という10キロ6千円の価格は「本来の価値に近づけるため」と説明する。

 国は消費量の減少に合わせて生産量を減らす減反政策を続けた。目的は米価の維持だが、半農の兼業農家が農地を維持してきた中山間地は過疎化が止まらない。今は企業を含めて「経営意欲の高い」担い手に生産を集める政策を進めるものの実績は頭打ちだ。

 コメはビジネスとしてどうなのだろう。「最強です。食べる人がいなくなることは絶対ないんですから」。コメ作りもドローンでの農薬散布など省力化が加速する。「将来は家にいてスマホでコメを作る時代が来るかも」。ネット通販は当たり前。著名な飲食店や日本酒とのコラボ商品などコメを「武器」に新たな「兼業農家」を模索する。

 清水さんは、7月豪雨で被災した福岡県のイチゴ農家と会員制交流サイト(SNS)でつながり、応援に駆け付けた。クラウドファンディングで復興支援するという。時間も場所も飛び越える実行力と若い感性に圧倒された。

 ゲリラスタイルに農業と地方の未来を考えるヒントが見えた。 (政経部編集委員)

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