「誰にでも起こりうる」死亡事故発生の登山道を検証 糸島市の井原山

西日本新聞 社会面 竹森 太一 大西 直人

 福岡県糸島市の井原山(982メートル)で、西日本新聞社の山歩き専門誌「季刊のぼろ」編集長、野中彰久さん(57)が遺体で見つかった事故から1カ月。悲惨な山岳事故を再び起こさないために何をすべきなのか。教訓を得るために現場の登山ルートを再検証するとともに、事故防止に向けた行政機関や県警の取り組みを追った。

 糸島署によると、現場は沢伝いに登る洗谷(あらいだに)ルート7合目付近。野中さんは9月13日に1人で登って消息を絶ち、翌日浅い沢にうつぶせに倒れているのが見つかった。死因は溺死。右側頭部が陥没、右のあばら骨も5本折れていた。署は「沢を登っている最中に足を滑らせて岩で頭を強打し、意識を失ったまま溺死した」とみる。

 西日本新聞社は8日、糸島署と糸島市消防署の許可を得て、消防署員と福岡県勤労者山岳連盟、福岡市山岳協会幹部ら9人で同じルートを検証した。その結果、けがの大きさなどから、沢で足を滑らせたのではなく、約8メートル高い崖の上の登山道から滑落した可能性を指摘する声が上がった。

 事故前日、糸島市では大雨が降った。野中さんは雨で増水した沢を避けて崖の上に回り道したとも考えられる。検証に参加した市山岳協会の浦一美会長は「事故の大半は危険な場所ではなく、安全な場所で気を緩めたときに起こる。野中さんも沢を離れてほっとしたのではないか。誰にでも起こりうる事故だ」と語る。

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 V字谷を約2キロ登る洗谷ルートは上級者向けとされる。ずっと険しい上りが続く上、途中で何度も沢を渡らなければならない。増水していれば水の中を歩くことになる。ぬれた石は滑りやすく、渡る際は慎重に石を選ぶのが鉄則で、常に緊張を強いられる。

 ルート上に標識は皆無。道を示すテープもほぼない。「ただでさえ見つけにくい踏み跡が、大雨の後は消える。倒木を回り込んで戻るときも道を見失いやすい。初めて入る人が迷いやすいのは間違いない」。遺体を発見した福岡市の男性(51)は、月に数回洗谷を登る経験からこう指摘する。

 幾つもある滝を回り道する際も、傾斜70度ほどの岩場を20~30メートル登る危険な場所が複数ある。難所にはロープが張ってあるが、多くは古く劣化しており、注意が必要だ。九州登山情報センター「山の図書館」の重藤秀世理事長は「両手両足のうち必ず3点で体を支える3点支持が不可欠。一般の登山道とは難易ランクが一つ違う」と話す。また、ルートのほとんどは携帯電話の電波が届かず、けが人の搬送やヘリコプターの接近も難しい。遭難時の救助要請や救難活動は困難を極める。

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 今回の事故を受け、糸島署や市、福岡森林管理署は洗谷ルートを閉鎖し、通行禁止の看板を設置。市ガイドブックからはルートを抹消する。昨年12月から今年7月までに滑落などの事故が3件発生しており、再発防止に向けた「踏み込んだ措置」(関係者)だ。

 しかし、ルート閉鎖後も難コースにひかれて入山する人はいるという。こうした「ルール違反」が事故につながる可能性もあり、関係機関は苦慮する。救助要請の通報や捜索に役立てるため、携帯電話で通話可能な場所を示す案内板(コールポイント)を近く整備する方針だ。

 洗谷に限らず、登山では念入りな計画と十分な装備が必要。加えてなるべく複数で登ることが望ましい。しかし、携帯アプリや会員制交流サイト(SNS)の情報で登山が身近になり、初心者や装備が甘い登山者も増えている。

 県勤労者山岳連盟の吉永直樹理事長は「自分の技術、知識、装備を踏まえた計画を立てることが大切。安全な登山に向けた啓発が重要だ」と強調している。 (竹森太一、南家弘毅、大西直人)

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 事故検証の詳報は12月発行の「のぼろ冬号」に掲載します。

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