学術会議の問題 論点すり替えは許されぬ

西日本新聞 オピニオン面

 問題の核心から目をそらし、論点をすり替えようとするのは許されない。菅義偉首相と政府は、国民の疑問に真正面から誠実に答えるべきだ。

 日本学術会議が推薦した新会員候補6人の任命を拒否した問題で、首相は明快な理由の説明を拒み続けている。首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的な観点から判断した」といった抽象的な発言を繰り返すばかりだ。

 その上、新たな事実も判明した。首相が任命を決裁する段階で6人は既に除外され、候補リストは99人だったという。首相は内閣記者会のインタビューで推薦段階の名簿は「見ていない」と明言した。

 驚くべき発言である。推薦名簿の全体を見ていないのに、なぜ「総合的、俯瞰的」な判断ができるのか。日本学術会議法は「学術会議は会員の候補者を選考し首相に推薦する」「会員は推薦に基づいて首相が任命する」と定める。学術会議の大西隆元会長が「選考基準と違う基準で拒否したとすれば法違反」と指摘するのもうなずける。

 加藤勝信官房長官は学術会議の推薦名簿が決裁文書に添付されており「(首相は)詳しくは見ていなかった」と述べたが、釈然としない。杉田和博官房副長官が、任命できない人が複数いると決裁前に首相へ口頭で報告していたともいう。事実であれば、削除の経緯と理由を具体的に説明すべきだろう。

 理解に苦しむのは、こうした疑問や批判が相次ぐ状況下で、学術会議の組織や運営の在り方を見直す-という議論がにわかに浮上してきたことだ。

 自民党の下村博文政調会長は学術会議の政府への答申や勧告が少なく「活動が見えない」として、学術会議の在り方を検討するプロジェクトチームを設ける方針を示した。これに呼応するように河野太郎行政改革担当相が学術会議を行革の対象として検証する意向を表明した。

 学術会議には2020年度予算で約10億円が投入され、会員は特別職の国家公務員だ。しかし同時に、政府から独立した「特別の機関」と位置付けられていることを忘れてはならない。

 答申がないとの批判に対し学術会議側が「政府が諮問しないからだ」と反論している点も考慮したい。提言や報告の形で活動している実態は学術会議のホームページを見れば分かる。

 税金が使われている以上、「聖域」とせず、組織や活動の在り方を議論するのは当然だ。ただし、今回の任命拒否とは全く別の問題である。なぜ、首相は任命を拒んだのか。この理由が明確にされない限り、批判封じのような行革論議は成り立たないと指摘したい。

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