旧東海大校舎に震災遺構 復旧進む阿蘇の今、現地を歩いた

西日本新聞 もっと九州面 梅本 邦明

熊本 震災復興と阿蘇の旅(上)

 2016年4月の熊本地震で甚大な被害を受けた熊本県の阿蘇地域で、復興が進んでいる。一部不通が続いていたJR豊肥線は8月に全線で運行を再開。10月に入り阿蘇地域と、熊本市や大分方面を結ぶ国道も復旧した。地震の記憶や教訓を語り継ごうと、震災遺構「震災ミュージアム」を整備しながら観光復活に力を入れる阿蘇のいまを、2回に分けて報告する。

 10月初旬、JR熊本駅で人気の観光特急「あそぼーい!」に乗り込んだ。この列車が走る豊肥線は、不通だった肥後大津-阿蘇間(27・3キロ)が8月に復旧し、4年4カ月ぶりに全線が再開。これに合わせ「あそぼーい!」は運行区間を日豊線の別府駅まで延長。雄大な風景が楽しめるパノラマシートなど、車内は家族連れでにぎわっていた。

 「阿蘇観光の玄関口」といわれる立野駅(南阿蘇村)を経て赤水駅(阿蘇市)に向かっていると、建設中の巨大な橋が目に飛び込んできた。震災で崩落した阿蘇大橋(206メートル)の代わりとなる新しい阿蘇大橋(525メートル、仮称)で、来年3月に開通予定という。

 ほかにも豊肥線のそばを走り、斜面の大規模崩落のため不通となっていた国道57号と、新設の北側復旧ルート(約13キロ)がそれぞれ今月3日に開通。熊本地震で寸断されていた主要な交通網の復興は今年、大きな節目を迎えたようだ。

 観光特急を降りた赤水駅で、出迎えてくれた阿蘇市観光協会の松永辰博事務局長(56)が力を込めた。「阿蘇地域の観光客は回復傾向にあったが新型コロナウイルスの影響もあり、まだ震災前の3割程度。アクセスの復旧でにぎわいが戻るように、情報発信していく」

    ◇   ◇

 赤水駅から向かったのは、震災前まで東海大農学部の学生ら約千人が学んでいた旧阿蘇キャンパス(南阿蘇村)。一部に断層が走っていた同キャンパスでは、地震で全校舎1~3号館が被災。いまは熊本キャンパス(熊本市)の学生たちが、安全なエリアを阿蘇実習フィールドとして使っている。

 敷地内に入ると、校舎の裏庭に長い屋根が設けられていた。中をのぞくと、熊本地震の時に表出したという断層(約25メートル)が、風雨で崩れないよう樹脂で固められ、保存されていた。みなみあそ観光局の久保尭之さん(29)によると、震災前は断層の存在は知られておらず、地震によって明らかになったという。

 熊本県は、県内にある被災した建物などを「震災ミュージアム」として保存する方針で、旧阿蘇キャンパスの表出した断層と校舎の1号館をミュージアムの中核施設として整備。今年8月から公開を始めた。

 1号館は中には入れないが、近づくと、窓枠がぐにゃりと曲がり、ガラスは割れ、柱と壁には無数の亀裂が走っていた。室内をのぞくと、机や椅子、棚が散乱し、壁には当時のカレンダーがかかったままで、まるでそこだけ時が止まっているようだった。

 同キャンパスでは、23年度に体験型の展示施設が完成する予定。久保さんは「震災の記憶は物理的にも気持ちの面でも風化してしまう。ネガティブな経験だが、ここに住み続けたいという住民の思いも含め見学者に伝えたい」と静かに語った。

 4年半前、震災直後に取材で阿蘇を訪れた。「震災遺構」の前に立つと、懸命に復旧作業に当たる被災者の人たちの姿がありありと思い出された。震災を風化させてはならないと、強く思った。 (梅本邦明)

 ▼旧東海大阿蘇校舎1号館の見学 熊本県南阿蘇村河陽5435。入場無料。午前9時~午後5時(11月中旬~2月末は午後4時まで)。団体客は事前の予約が必要。毎週火曜(祝日の場合は開館)と年末年始は休館。問い合わせは熊本県知事公室付=096(333)2011。

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