『EUREKA ユリイカ』バスジャック被害者、ともに歩む再生の軌跡

西日本新聞 吉田 昭一郎

フクオカ☆シネマペディア(7)

 北九州市出身の青山真治監督の初期作品で、カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞などを受賞した「EUREKA ユリイカ」(2001年)。犯罪被害者たちがどう苦しみ、再生のきっかけをどうつかむのか、心の軌跡をたどる大作だ。

 主人公は、バスジャック殺人事件に巻き込まれた運転手、沢井真(役所広司)と小中学生と見られる乗客の兄、直樹(宮崎将)と妹、梢(宮崎あおい)。同乗者が射殺され、死の恐怖に襲われた。3人は心的外傷後ストレス障害(PTSD)に苦しんだろう。

 加えて、「運転手は生き残った」という世間の目はつらい。沢井は事件後、一時失踪する。梢とその両親は、「梢が性的被害を受けた」という事実無根のデマの拡散におののく。

 動揺する両親は不仲になり、母親は家を出る。父親は急死。遠くで暮らす祖母は死亡保険金を気にするが、やっては来ない。ネグレクト(養育放棄)状態に陥った兄妹は学校に行かず、生活が荒れる。偶然再会した沢井は放っておけず、同居し世話を始める。

 兄妹は言葉が出ない。兄は暴力的になった。近くで連続女性殺害事件が起き、容疑者扱いされた沢井は、兄妹とそのいとこの青年と計4人で「皆でやり直そう」とバスの旅に出掛ける。

 全3時間37分。見る側は長い時間を3人とともに歩む感覚になる。「それは考えた。映画は必然的に長くなってしまう、と。なぜなら、3人と一緒に過ごす時間の長さは(立ち直りに時間がかかる犯罪被害者の心に迫る)一番の根拠なんだから、と思っていた」と青山監督は振り返る。

 セピア色のモノクロ映像で、兄妹らの表情、しぐさと自然景観を織り交ぜ、長回しで映し出される映像は心象風景の暗示に思えてくる。例えば、夜の弱い光が木々の揺らぎを怪しく映し出す就寝中のバス車内であったり、牛が草を食む広大な草原を4人が思い思いに歩く遠景であったり。それらは葛藤の表れのようであり、心の傷が癒える過程のようでもある。見る側は一つ一つの場面に何かを読み解こうとし、いつのまにか、犯罪被害者という存在に深く想像力を働かせようとしているのである。

 この映画は、不可解なものは不可解なままに被害者の心に肉薄し、事件の根源を探ろうとする。その根っこには、事件を社会で共有し教訓を導き出そうとする熱意があるはずだ。

 兄妹に寄り添って支え、そこに自身の再起も見いだす沢井が、時折吐き出す言葉が印象深い。「時間のかかっとですよ。自分らのやり方、見つくっとに。あん子らも俺も。その間、ほたっとってくれんですか」。沢井役の役所には魂を感じる。表情に何かを含ませる宮崎あおいの演技も秀逸だ。

 主な舞台は甘木(福岡県朝倉市)。旅先は海の中道(福岡市)や阿蘇(熊本県)などだ。阿蘇のカルデラ火山の大景観は、物語のスケール感と重なって、何らかのインスピレーションを惹起するだろう。 (吉田昭一郎)

 ※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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