「毎日売れている」被爆直前の長崎、詳細地図が人気 20日で重版

西日本新聞 長崎・佐世保版 西田 昌矢

 被爆直前の長崎市の地図を詳細に再現し、解説した本『復元! 被爆直前の長崎』(長崎文献社)が出版から約20日間で重版された。サブタイトルは「原爆で消えた1945年8月8日の地図」。担当編集者によると原爆関連では写真集や小説は売れる傾向にあるが、地図のような資料本が売れるのは珍しいという。

 北は旧長与村、南は長崎市十人町付近までを3570分の1に縮尺した地図を24分割して掲載。地図を見ただけでは見落としてしまいがちな、建物の歴史や街の成り立ちを解説する内容となっている。

 販売開始直後の8月には長崎市の好文堂、紀伊国屋、メトロ書店でベストセラーに。好文堂書店では8~9月にかけて計6週間で1位。好文堂の担当者によると「地元の人を中心に根強い人気。今でも毎日売れている」。

 著者の自然史研究家、布袋厚さん(61)=長崎市=が本の構想を思いついたのは被爆60年の2005年。当時を知る人が亡くなる中、「後世に記録を残さなければ」との思いで制作に取りかかった。

 被爆前、直後、現代、複数の地図と航空写真を重ね合わせて建物や道路の正確な位置を割り出した。店や公共施設名は商工会議所の人名録や経済名鑑など複数の資料で調査。原爆投下前に5回の空襲に見舞われたことも記した。爆心地付近の復元地図はこれまでもあったが、浜町などの市街地部分を詳細に復元したのは初めてという。

 資料的な価値の高さ以外にも人気の理由はある、と長崎文献社の堀憲昭編集長は分析する。原爆により、長崎市の街は戦前と戦後で大きく姿を変えた。「うちの家は昔そこにあった」「近所に軍事施設があった」-。市民にはそんな話を聞きながら育った人が多い。 「人づてにしか聞けなかった、戦前の『わが家』が実際にあったことを確かめることができる。それが、読者を引きつけたのだろう」と堀編集長は話す。

 B5判、192ページ。税込み3300円。 (西田昌矢)

軍都の名残探る

 戦前、軍事施設が建ち並ぶ「要塞地帯」だった長崎市。『復元! 被爆直前の長崎』によると現在の長崎大文教キャンパスや、商業施設「みらい長崎ココウオーク」の西には兵器工場があり、金比羅山などには高射砲陣地が築かれていたという。「8月8日」までの地図を頼りに軍都の名残を探した。

 長崎市浦上地区の三菱兵器住吉隧道(ずいどう)工場(三菱兵器住吉トンネル工場)跡。戦時中は約300メートルのトンネルが6本掘られ、24時間体制で魚雷が製造されていた。東は住吉町、西は赤迫に通じ、現在も2本が残っている。

 長崎電気軌道赤迫電停を降りて東側の小道を進むと民間駐車場の片隅にひっそりとたたずむ、赤迫側のトンネル入り口が見えてきた。見学スペースと案内板がある住吉側と比べると何だか寂しい。

 地図を眺めると近くのマンションが密集する一帯に「朝鮮人飯場(はんば)」とあった。住吉側にもある。飯場とは労働者の給食や宿泊施設のこと。長崎市によるとトンネルの掘削工事には約千人の朝鮮人労働者が従事したという。

 「そこにはお医者さん、あそこは田んぼ。ここ数年でずいぶん変わったね」。近くに住む薗田智恵子さん(79)が教えてくれた。戦時中、薗田さんは野母崎方面に疎開。原爆投下後、破壊された街の様子に心を痛めた。飯場があったことを知る人はもうこのあたりにはいないだろう、とのこと。「復興とともに戦時中の面影がなくなる。ある意味でそれは素晴らしいことだね」。地図を眺め、平和な世の中をかみしめた。 (西田昌矢)

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