「『正解』はない」引きこもりの息子…葛藤する“普通の母”にエール

西日本新聞 くらし面 川口 史帆

 福岡市在住で編集プロダクションを営む臼井美伸さん(55)が、引きこもりの息子を持った母親たちの体験談をまとめた「『大人の引きこもり』見えない息子と暮らした母親たち」(育鵬社、1650円)を発刊した。「引きこもるのは特殊な家庭の特別な人ではない。誰でも当事者になる可能性がある。苦しむわが子と一つ屋根の下で葛藤する普通の親がいることを知ってほしい」と語る。

 臼井さんは2016年、引きこもりの子や家族を支援する団体に密着取材し、数十軒の家庭訪問に同行した。当初は引きこもる本人の思いや解決への道筋を描くことに興味があった。

 「親孝行な子なんですよ」。あるとき、支援員が本人と話し合う間、別室で臼井さんと2人きりになった母親が泣きながら語った。「働いていた頃はバッグをプレゼントしてくれたし、一緒に旅行もして…」

 引きこもりの原因は愛情不足や家族の機能不全という印象が社会に根強い。過干渉で自立を妨げる「毒親」という言葉もある。だが、その母子にはほんの数年前までありふれた日常があった。息子を心配し、言動に一喜一憂する母の姿は、現在大学生の息子がいる臼井さんと何ら変わらない。

 訪れる先々で母の話に耳を傾けた。彼女たちの声を読者に届けたいと思った。

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 本作は全2章。1章は60~70代の母親8人と、30~40代になった息子たちの思いをつづる。幼少期の思い出から引きこもりの日々、父親やきょうだいとのすれ違いやきしみ、そして一歩を踏み出すまで。家族の歩みを丹念に描く。2章は親子の向き合い方について支援者の助言や臼井さんが考える「母として気を付けるべきこと」をまとめた。

 8組の母子は高齢の親と初老の子がともに社会から孤立する「8050問題」に近い世代。夫は仕事、妻が家事や育児と役割を分担してきた夫婦が多い。「育て方が悪い」と妻を責めるばかりの夫もいた。

 だが、食事を運んだり、新しい下着や服を買い与えたり、苦しみもがくわが子ともつれ合うように関わる母親が「もう大人だから」と子を突き放すのは難しい。自身が「死にたい」と思い詰めたり、うつ病になったりした母もいた。

 行政や支援団体を回りながら次第に「生きていれば良い」と感じるようになった母。息子が家を出た今も心配で世話を焼いてしまう母。葛藤は続く。

 臼井さんは「過保護と感じることもあるけど、母親って多かれ少なかれそういうもの。母親自身がそう自覚した上で信頼できる人を探し、周囲は理解して支えてほしい」と話す。

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 「親ができることは限られている。息子さんを信用して」。支援者が母親たちに向けた言葉は臼井さんの胸にも刺さった。自分にも覚えがある。自宅でゲームに熱中する高校生の息子を「外へ出なさい」と叱ってはけんかした。1人暮らしを始めた後も心配で頻繁にメールを送った。やり過ぎだったかと振り返る。

 「幸せを勝手に決めない」「『こんなに心配している』と恨めしそうな顔で見ない」-。2章の助言は全ての親に向けられる。

 臼井さんは「子育てに『正解』はない。親は手探りし、失敗する。あなただけじゃない。自分を責めすぎず、希望を持ってと伝えたい」と話した。(川口史帆)

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