「ナリ検」市川寛さん “検察の独善”外から戒める

西日本新聞 文化面 中島 邦之

 著者は、法曹関係者が「ヤメ検」と呼ぶ元検事の弁護士。タイトルの「ナリ検」は逆に弁護士から転じた検事を指す。著者の造語で、現実に存在するかは分からない。

 厚いベールに覆われた検察庁が舞台の本作はフィクション仕立てだが、多くの無罪判決を下し“伝説の刑事裁判官”として知られる元東京高裁裁判長の木谷明氏は「経験者でなければ絶対に描けない世界」と感想を寄せる。

 物語は、九州のとある地方検察庁が担当した強盗事件に無罪判決が出るところから始まる。控訴期限は2週間。控訴するか、無罪判決を受け入れるか。検察庁内での「控訴審議」で、主人公であるナリ検はただひとり控訴見送りを主張。上司や部下を巻き込んだ人間ドラマが繰り広げられる。12年9カ月間の検事時代に著者が出会った検事や過去の自分、「いてほしい」と願った検事像がモデルだという。

 現実世界では刑事裁判の有罪率は99%超。起訴されれば、100件に1件も無罪は出ない。物語の中で部下の検事は「検察に間違いはない」と言い切る。理屈はこうだ。「検察は常に公平公正に証拠を集め、有罪か無罪かを調べ尽くした上で起訴する。担当検事1人の判断ではなく、上司の決裁で幾重にもチェックする。それゆえ全ての起訴に断じて間違いはない」

 だが、人間のやることに「絶対」があるのか。主人公のナリ検は「検察の独善」を戒めるよう訴えるが-。

 著者は佐賀地検時代の2001年に佐賀市農協背任事件を捜査。取り調べで暴言を吐いて「自白」に追い込んだ組合長が後に無罪になった経験を、前著『検事失格』に記した。上司から作文調書を取るよう指示されたり、明らかに無罪と考える事件が控訴されたりした現場体験は衝撃だ。

 大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件などで検察への信頼は揺らいだ。著者が検察を去った05年以降、取り調べの録音・録画が始まるなど検察改革は進んだとされる。検察は生まれ変わったのか。

 「残念ながら、検察は今も、自分たちは正しい、変わる必要はない、と考えている組織だと思う。その絶望感を変えられるのは外部からの血しかない。そんな希望をナリ検に託したんです」

 (中島邦之)

 (日本評論社・1870円)

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