旧伊藤伝右衛門邸 国の重要文化財指定へ…関係者の悲願結実 

西日本新聞 筑豊版 坂本 公司

 福岡県飯塚市幸袋の旧伊藤伝右衛門邸が16日、国の重要文化財に指定される方向となった。一時は解体の可能性まで取り沙汰された邸宅が、市民による保存運動を経て、関係者の間で「悲願」だった重文指定への道が開けた。市内では歓迎や観光振興への期待の声が上がった。

 指定の対象は旧伊藤邸の主屋(約25室)や長屋門、道具蔵、骨董(こっとう)蔵などの7棟(計1159平方メートル)。文化財としての指定名称は「旧伊藤家住宅」になる。飯塚市内の建造物の重文は初めて。敷地内の庭園は2011年に国の名勝に指定済みで、筑豊の炭鉱王・伊藤伝右衛門(1860~1947)が財を惜しみなく投じて造り、過ごしたぜいたくな空間が国から高く認められることになった。片峯誠市長は「本住宅を大切に保存して後世に伝えるとともに、豊かな心が育まれるまちづくりに弾みをつけたい」とコメントを出した。

 和風を基調とした邸宅だが、応接室のステンドグラスや暖炉など所々に洋風デザインを施し、九州初という水洗トイレも有名。伝右衛門が妻に迎えた歌人・柳原白蓮(1885~1967)は1911年から10年間、主屋2階の座敷を居室として過ごした。21年に年下の青年とともに出奔した話は当時、スキャンダルとして世の中を騒がせた。

 凝った造りだけでなく奥深いドラマを残す邸宅だが、伊藤家から民間会社の所有になり約40年がたった2000年代初頭、会社が市への売却を打診。交渉が不調になれば、解体もあり得る事態になった。

 そこで市民らが「保存を願う会」を結成し、運動を展開。熱意に押された市は06年、邸宅を無償譲渡、敷地を約1億5千万円での購入という形で引き取った。同会事務局だった飯塚商工会議所の麻生泰会頭は「商議所女性会長だった小野山とし子さん(故人)たちの尽力や飯塚市の英断により旧伊藤邸が残った」とコメントで振り返った。

 重文指定は「飯塚市が所有した当初から将来の目標」(市教育委員会)。市は邸宅の全国的な知名度向上と、修理工事への国庫補助が使いやすくなる点を利点に挙げる。邸宅内で展示会を開いているいいづか雛(ひいな)のまつり実行委員長の瀬下麻美子さんは「しっかりした維持管理で多くのお客さまを迎えられるようにしてほしい」と期待した。

 一方、課題は誘客。伝右衛門と白蓮をモデルにした人物が登場したNHK連続テレビ小説「花子とアン」放映時の14年度は約31万人いたが、昨年度は約4万3千人まで落ち着いた。新型コロナの影響で臨時休館があった本年度は9月末までで約3400人。市教委の仲村慎太郎学芸員は「重文指定をきっかけに、趣ある空間を多くの人に楽しんでほしい」と話した。 (坂本公司)

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