タイ反体制集会 政権は民主化の声を聞け

西日本新聞 オピニオン面

 タイでプラユット現政権の退陣と民主化を求めるデモが拡大している。政権側は強硬策で抑え込みにかかっており、衝突が激化すれば流血の事態に至る可能性も懸念されている。

 14~15日には反体制派がバンコクで大規模な集会を開いた。これに対して政権は集会のリーダーらを逮捕し、首都バンコクに新たな非常事態宣言を出して5人以上の集会を禁じた。反体制派は繁華街占拠などで対抗しており、緊張状態が続く。

 タイでは2014年のクーデターで軍部が政権を掌握した。昨年の総選挙で形の上では民政に移行したが、軍政時代に改正された憲法の規定によって、クーデター主導者で軍出身のプラユット氏がそのまま首相にとどまった。民主化を求める市民の失望は大きかった。

 さらに今年2月、総選挙で若い世代の支持を得た新政党が、軍の影響下にあるとされる憲法裁判所によって解党を命じられた。これをきっかけに大学生など若者グループによる反体制運動に火が付いた。新型コロナウイルスの感染対策で経済が低迷し、社会の格差が拡大していることへの不満も背景にある。

 タイの政治混乱といえば、これまではタクシン元首相派と反タクシン派の対立だったが、現在は様相が違う。軍政支持の保守派と、民主化を求める若い世代との対立となっている。

 今回とくに注目されるのは、反体制派がタイ社会でタブーとされてきた王室の在り方を巡る論議に踏み込んでいる点だ。

 国民の敬愛を集めたプミポン前国王の時代、タイでは政治が混乱すると国王が仲裁に乗り出し国の分断を回避してきた。国王の権威を借りて政治を安定させる繰り返しは「タイ式民主主義」とも呼ばれてきた。

 しかし前国王の死去後に即位したワチラロンコン国王は、前国王ほどのカリスマ性がなく、国外に滞在する期間が長いことから、国民の王室観にも変化が出ている。反体制派は王室関連予算の透明化や、不敬罪の見直しなどの改革も求めている。

 タイ国民には親王室感情も根強く、王室を巡る対立が深まれば、暴力的な衝突を招きかねない。クーデターによる政争のリセットや、国王の仲裁という「タイ式民主主義」にも限界が見えてきた。政権、反体制派の双方が冷静かつ自制的に事態に対処することが望ましい。

 まずプラユット政権が抗議の声に耳を傾け、事実上軍政を固定化している憲法の改正や王室改革論議など、実質的な民主化を前に進めるべきだ。政権が力で抑え込もうとしても、変革を求めるうねりをいつまでも押しとどめることは困難だろう。

PR

社説 アクセスランキング

PR

注目のテーマ