【デジタル庁に望む】 関根 千佳さん

西日本新聞 オピニオン面

◆UDを前提に取り組め

 電車やバスで移動し、役所で申請や届け出をする市民には、妊産婦も高齢者もいる。だから公共交通や建築は、ユニバーサルデザイン(UD)が前提。誰でも使える「アクセシブルな」もので、かつ使いやすい「ユーザブルな」ものでなくてはならない。バリアフリー法も浸透し、今では当たり前となった。

 これをオンラインで行おうとすると、突然、難しくなる。日本の電子政府や電子自治体は、決して使いやすくない。情報通信技術(ICT)やサービスは「UDを前提とすべし」という法律が日本には存在しないからである。

    ◆   ◆ 

 多数の諸外国では、どの市民も情報化の進展から取り残さないという決意のもと、ICTのUDが徹底している。公共機関が調達するICT機器やWebサイトはアクセシブルでなければならず、違反した公務員は提訴・処罰される。米国では1986年からある「リハビリテーション法508条」で詳細な技術基準を設けており、EUでもEAAというヨーロッパアクセシビリティ法で各国に義務付けている。

 今回のコロナウイルス問題で、日本のデジタル化の遅れが指摘され、デジタル敗戦とも呼ばれた。電話やFAXで送られ手で転記される情報、縦割りで省庁間のテレビ会議もできないネット環境、紙とはんこのためテレワークが難しい自治体や省庁など、海外から見れば、どこが先進国かと思えるような前世紀のシステムばかりだ。

 だから、デジタル庁構想には大きな期待をしている。まずは「隗(かい)より始めよ」で、電子政府・電子自治体の改善から手をつけるというのは素晴らしい。紙を置き換えるだけのシステム化でなく、きちんとビジネスプロセスから見直すことや、韓国やエストニアのようにシステムやデータの専門家を育成・処遇する仕組みが必須だ。

 そしてデジタル庁には、アクセシビリティとユーザビリティの専門家を置くべきだ。その上で米国リハ法508条やEUのEAAに相当する法律を作ってほしい。建物や交通のアクセスと同様に、情報へのアクセスも人権なのだ。

    ◆   ◆ 

 日本では、情報化が進まない理由に、必ず「高齢者が使えないから」という言い訳が聞かれる。最初からUDで作れば、みんなに使いやすくなるのに。

 数年前にノルウェーに行ったとき、銀行が特別養護老人ホームでインターネットバンキングの講座を開いているのを見て驚いた。今後のキャッシュレス社会では「高齢者が自分の資産管理をオンラインでできることは必須だ」と担当者は語っていた。システムが高齢者を前提とし、かつ教育がいかに大事かをわかっていたのだ。

 中国でも、高齢の商店主が軽々とスマホ決済を扱うのを見て、とても羨(うらや)ましかった。現金がないので泥棒も減ったという。システムそのものが、最初から高齢者や障害者に使えることを前提に作られている。そうやって国全体のデジタル化を進めてきた。

 日本は、障害者差別解消法も欧米に遅れること数十年だった。デジタル敗戦は、UD敗戦でもあった。SDGs(持続可能な開発目標)の中では、「環境」に良くない製品の開発や購入が問題であるように、「人間」にとって使えない、使いにくいシステムも罪なのである。

 海外のデジタル製品が環境配慮やUDを前提とする中で、日本製品が海外で入札に参加できなくなった事例も目立つ。国内外におけるデジタル敗戦の原因は、UD視点の欠如であったという認識の上で、デジタル庁構想は進めていただきたい。

 【略歴】1957年、長崎県佐世保市生まれ。九州大法学部卒。81年、日本IBMに入社。ユニバーサルデザインの重要性を感じ、98年に(株)ユーディット設立。同社社長、同志社大教授など歴任。著書に「ユニバーサルデザインのちから」など。

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