倒産で見えた“本性” 夫を見捨てた妻の言い分

西日本新聞

復刻連載・夫婦でいる理由(わけ)<4>

 週刊誌の広告に「見捨てられ離婚」という言葉を見つけた。病気で長期休職したり、左遷された夫の能力や将来性を妻が見限ったりしたときに起こる“悲劇”らしい。ときは平成大不況、リストラや倒産で職を失う人も少なくない。

 「見捨てた」妻にも言い分はある。長崎の実家に息子と2人で帰ったチカさん(34)は「本性を見てしまったからです」ときっぱり。

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 5年前に結婚した。夫が勤めていたのは、福岡にある従業員約100人の建設会社。若手の有望株として、社長からもかわいがられていた。

 ところが、不況に放漫経営が重なり、倒産。社長は夜逃げしてしまい、社員全員が放り出された。結婚2年目の秋、息子が生まれて2カ月後のことだった。

 夫は運よく次の職にありつけた。だが、長続きしなかった。転職すること十数回。3日と持たないこともあった。「生まれも育ちも湘南で、いつもブランドの服を着て、エスコート上手だった彼」の面影は、もはやない。「いまさら下働きなんかやってられるか」。愚痴をこぼし、酒におぼれ、暴力を振るうようになった。

 それでも「こつこつやっていこうよ」と励まし続けた。「生まれたばかりの子どものためにも、私が家計を支えなければ」。育児休暇も半年で切り上げ、英会話スクールの講師に復帰した。

 立ち直る気配はなかった。それどころか、勝手に預金を引き出しては夜の街を飲み歩くようになった。新興宗教に入信し、そこへも金をつぎこんだ。財布を隠して寝る日々が続いた。

 決断のときがきた。息子を抱いているのに、息子もろとも殴られたのだ。もう耐えられない。別れ話を切り出した。

 夫は承知しなかった。だが、いつまで待ってもまじめに働こうとしなかった。「もう昔のあの人には戻らない」。倒産から1年半、幼い子の手を引いて、家を出た。

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 昨春、離婚が成立した。落ち着きを取り戻した今、チカさんは夫と出会ったころを思い出していた。

 「あれは大失恋の直後、私が29歳のときでした。婦人科検診で子どものできにくい体質といわれたこともあって、一日も早く結婚して出産したかった。傷心と焦りが重なって結婚相談所に通ったことも。“30の壁”を富士山より高く感じてました」

 そんなとき、目の前に現れた「湘南ボーイ」のすてきな彼。交際3カ月でのスピード結婚だった。

 「あのころは、こんなに逆境に弱い人とは思ってもいませんでした。苦しいときこそ支え合うのが夫婦。そう自分に言い聞かせて、精いっぱい支えてきたつもりです。でも一方通行でした。私だって苦しかったのに」(文中仮名)

 この記事は1999年3月31日付で、文中の年齢、肩書、名称などの情報はすべて掲載当時のものです。

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 21世紀に入って20年が過ぎた。この間、女性の社会進出が進み、男女の関係も変化したように見える。では、夫婦のカタチは…。1999年の連載「夫婦でいる理由(わけ)」を読み返してみると、その答えが見えてくる。

 

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