北京の教授が語る学術 相本康一

西日本新聞 相本 康一

 3年ほど前まで駐在した北京で、中国有数の名門大学に在籍する中国人教授と何度か会う機会があった。

 ある時、上海の研究者が書いた論文が話題に上った。中国共産党による一党支配は日本や欧米の民主主義より優れている、選挙には金も時間もかかり、まがい物である、中国式こそ素晴らしい-。そんな内容だったという。

 「失笑するくらい、完全な間違いだ」と教授。いわく、民主主義は物事を決めるのに長い時間を要するが、どの政党が政権を担っても法律に基づく統治であり、安定している。一方、中国式は政策遂行が素早くできて無駄がないが、法治ではなく人治であり、権力を握った指導者の思いつきによって左右される。

 教授は冷静にメリット、デメリットを語った。

 中国憲法は「国家は共産党の指導を仰ぐ」と定め、国家より党が上に位置付けられている。一方、社会科学の立場からはそういう分析になるのだろう。「党の言うことをそのまま聞いていたら、学問はできない」。教授は話した。

 残念ながら、こうした見解が公表され、共有される場面はほとんどない。共産党批判につながる言論は認められず、かつては比較的自由だったとされる大学の授業内容にも近年、党が口を出す。党と考えが異なる学者が一時拘束されることも珍しくない。

 教授が語ってくれたのは、レストランの個室である。気骨はあっても、研究生活を続けるために、どこかで折り合いをつけているのだろう。

 日本は一党支配ではないし、言論の自由もある。それでも日本学術会議の会員候補任命拒否について考えると、隣国で見た光景がちらつく。

 菅義偉首相は「学問の自由とは関係ない」と言う。確かに日本学術会議に選ばれなくても、研究は自由にできる。

 ただ、中長期的に見たらどうか。任命拒否の理由が明らかにされない以上、政権に批判的だからと受け取るしかない。税金を使うのだからというならば、気に入らない学者の研究には補助金も出さない、そんな理屈にならないか。

 日本学術会議が「御用学者」の集団と見られれば、影響力を失い、学問全体の地盤沈下につながる。その先に見えるのは政治の独善である。

 上海の研究者は、一党支配を礼賛する論文をなぜ書いたのか。教授は解説した。「共産党中央の要人のそばに彼と同じ大学の出身者がいる。彼も偉くなりたいのだろうね」

 いわば忖度(そんたく)か。日本で同じことが起こると言うつもりはないが、気になっている。(クロスメディア報道部編集長)

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