危うい「非遺伝子組み替え」確保 大豆輸入の現場、バイヤーに聞く

西日本新聞 くらし面

大豆輸入の現場から (上)バイヤー高田祐憲さん寄稿

 遺伝子組み換え(GM)作物の商業的栽培は、日本では実質ゼロだが、世界は別だ。主要生産国におけるGM大豆栽培の割合は米国、ブラジルで総生産量の9割以上、カナダで8割以上を占める。国産大豆の自給率が7~8%にとどまる中、今後、非GM大豆は安定的に確保できるのか。長年、北米に足を運び、穀物輸入卸として非GM大豆に携わる福岡市在住の高田祐憲さん(43)に寄稿してもらった。

 作物栽培での課題の一つが雑草。雑草の分だけ収穫量は減るし、除去する手間も増えます。そこで登場したのが除草剤と、その除草剤をかけても枯れないよう遺伝子を組み換えた作物のセット栽培。1996年には6カ国で商業栽培が行われるようになりました。

 除草剤の代表が、雑草の内部でアミノ酸合成を阻害して枯死させるグリホサート系。ところが程なく、これを散布しても枯れない耐性を持つ雑草が出現しました。

 その効力が薄れたことから、グリホサート系に代わるジカンバ系除草剤と、それに耐えられるGM種子のセット販売も増えました。でもジカンバ系は揮発性が高く、散布された土壌や作物から蒸発して、遠く離れた農場まで飛散しやすい。カナダでは、「近隣の作物を枯らしてしまい、23件の訴訟を抱えている」「虫の音を聞かなくなった」という農家の声も聞きました。

 それは“対岸の火事”ではありません。グリホサート系除草剤は、日本でもドラッグストアなどで普通に販売され、空き地でよく目にするヒメムカシヨモギやブタクサなど、耐性を持つ植物の種類は増加傾向。生態系に及ぼす影響は無視できないでしょう。

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 私が取り扱うのは、豆腐や納豆用の非GM大豆。北米の農家とは種をまく約2年前に契約します。使用する農薬や残留農薬検査を行い、種子を確保する時点から栽培中まで、遺伝子の混入を調べるイライザ法で何度もチェック。現地で船積みする際に99・0%以上の純度を確認し、GM大豆と混ざらないよう厳密に分別管理した上で、袋詰めして日本に送ります。

 かつて米国から日本に向けた非GM大豆は、地方の種子会社が、独自で育種した豆腐などに向くタンパク含有量の多い品種を自社選別するケースが一般的でした。ところが2005年、バイオエタノールを主とする再生可能燃料の使用量を義務付けた米国の「エネルギー政策法」が成立し、その流れは激変します。

 石油メジャーがエタノール事業に目を付け、低迷していた穀物産業に巨大資本が参入するなどした結果、投機的な資金が穀物市場へ流入。中国の大豆輸入の本格化も相場を押し上げます。さらなる売り上げ増をもくろみ、他の農場を買い上げて生産規模を拡大する農家も現れました。

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 巨大資本は少しでも収穫量が多く、農薬の費用が抑えられる収益性の良い種子の開発に積極投資。大豆の単位面積10アール当たりの収穫量(単収)は急伸し、米農務省によると、2000~10年は273キロだった平均単収は、11年からの10年間(推定値含む)で315キロと、約16%増加しました。

 ちなみに日本の平均単収は、18年産で167キロと米国の半分ほど。栽培面積は日本の15万ヘクタールに対し、米国は3391万ヘクタールと200倍以上です。遠い米国から船で輸入したとしても、国産大豆の価格が輸入大豆の3~5倍になる理由の一つがここにあります。

 日本でGM大豆を原料にした食品の場合、遺伝子の痕跡が残らない油などは、「遺伝子組み換え」という表示は不要ですが、豆腐や納豆などには表示義務があります。

 表示さえすれば、GM大豆で豆腐を作り、売るのも可能です。ただ「安全性に不安」などの理由で、消費者に敬遠される状況が予想されるため、作るメーカーがないだけです。

 でも、世界の主流はGM大豆。生産者が確保できないとか、国際価格が高騰するとかで、非GM大豆の入手が難しくなれば、豆腐や納豆も毎日、気軽に買える食品ではなくなるかもしれません。日本の消費者が「別にGM大豆でも構わない」なら話は別ですが…。

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