『日本侠客伝 花と龍』健さん全盛期のホームゲーム、さあリベンジだ

西日本新聞 吉田 昭一郎

フクオカ☆シネマペディア(8)

 昭和の大スター、高倉健は、かつて筑豊炭田の石炭を船が運んだ遠賀川沿いの福岡県中間市生まれ。「日本侠客(きょうかく)伝 花と龍」(1969年、マキノ雅弘監督)では、明治期、その石炭の集積・積み出し港として栄えた若松港(北九州市)で港湾労働者「ごんぞう」たちを率いた主人公、玉井金五郎を演じた。なじんだ土地にあっていい男ぶりを見せている。いわば、ホームゲームである。

 原作・火野葦平。金五郎は、戦友を頼って、ごんぞうとして働こうと若松にやってくる。ごんぞうは石炭を伝馬船に乗せて、沖の大型船に運び入れる。ごんぞうを束ねる多くのグループがあって石炭の荷を奪い合い、荷さばき量を競い合っている。

 てんびん棒の両側に下げた竹かごに石炭を入れて、担いで運ぶ重労働だ。力自慢の金五郎も、最初はへっぴり腰でうまくいかない。荷を巡ってグループ間でけんかもある。船上の大乱闘で大暴れしたり、有力グループとのトラブルで直談判に乗り込んだり。金五郎は逃げない。正面から立ち向かう。やがて親方や仲間の信頼を集め、グループを率いることになる。

 だが、妨害がある。ごんぞうの賃金向上につなげるために各グループが集まって組合をつくり、荷主と直接交渉しようと呼び掛け、会合を開こうとしたところ、関係者が有力組織から妨害や脅迫を受け、仲間たちが殺害されるのだ。金五郎は単身、その組織に乗り込む。

 いじめられ、脅され、仲間が殺されて、ついに刃を抜く侠客映画の定型パターンではあるが、理屈抜きに元気をもらえる。善悪が見分けにくい複雑で矛盾だらけの世を思うとき、義理と人情を押し通して生きる健さんの演技は、その薄闇を切り裂き、つい忘れてしまいがちな理想というようなものを思い起こさせてくれる。

 女賭博師(藤純子)が金五郎に言う、「男は自分がこうと思ったことに体を張って生きていかなくちゃ」。「人間裸一貫、自分が正しいと思う道にまっすぐ進んでいきない」と語る大親分(若山富三郎)のせりふは、命懸けの金五郎の大立ち回りに乗っかって、響くものがある。

 公開当時、おそらく全共闘運動の学生たちや、働き者の「会社人間」たちが見ては、勇気をもらったのではないか。あるいは、思うに任せぬ現実にたまったうっぷんのカタルシス(浄化)につながっただろうか。

 鼓舞するような野太いベースの前奏から、♬遠賀土手行きゃ 雁がなく♬ と健さんが歌い始めると、リベンジの前触れ。わくわくしないではいられない。

 ごんぞう仲間の妹マン(星由里子)との恋と結婚、夫婦の絆も物語を彩る。健さん全盛期の侠客エンターテインメントである。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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