原発処理水放出 時間切れは理由にならぬ

西日本新聞 オピニオン面

 時間切れを理由に強行することは許されない問題である。

 東京電力福島第1原発のタンクにたまり続けている放射性物質トリチウムを含む処理水について、政府は海洋に放出する方針を固めた。近く関係閣僚会議を開き、正式決定するという。

 東電は今後の廃炉作業をスムーズに進めるには、原発敷地内で処理水を保管するタンクを増設するのは限界があり、2022年夏ごろにタンク容量の137万トンが満杯になる、との見通しを示している。

 海洋放出の準備や手続きには2年近くかかるとされ、これ以上、結論を先送りすることは難しい。つまり、時間切れが迫っている、という論法だ。

 ただ、反対の声は根強い。全国漁業協同組合連合会(全漁連)は6月の通常総会で海洋放出への断固反対を全会一致で決議した。わが国漁業の将来にとって壊滅的な影響を与えかねない重大な問題である-との指摘を無視はできない。政府と東電は説明と説得を尽くすべきだ。

 処理水は、原子炉内で溶けて固まった溶融核燃料(デブリ)の冷却に伴い発生する。デブリに触れた水は高濃度の放射性物質を含む汚染水となる。セシウムやストロンチウムといった62種類の放射性物質を取り除ける多核種除去設備(ALPS)などで汚染水を浄化したのが処理水で、日々増え続けている。

 残念なことに浄化は十分ではなく、処理水の約7割にトリチウム以外の放射性物質が基準値を超えて残る。東電は、再浄化すれば基準値内に収められるとしているが、水素の一種であるトリチウムは「水」として存在するため、ALPSなど現在の設備では除去できない。

 政府は、トリチウムは自然界にも存在し、人体への影響は軽微だと説明する。稼働中の原発からも大量のトリチウムが放出されている。福島第1原発の処理水は海水で薄めて放出するため、環境にも影響はないとの立場だ。他国でも実施されている処分方法である。

 処理水の扱いについては、民間の原子力市民委員会が大型タンクでの長期保管やモルタル固化による半地下処分などの代替案を提言した。政府はこれらも十分に検討する必要がある。

 福島原発事故後、韓国などが日本産の農水産物への輸入規制を続ける。処理水を海洋放出すれば国内外で風評被害を招きかねない。福島の水産業だけでなく、日本全体の食品輸出への影響も懸念される。政府は風評被害防止の対策も怠れない。

 東電は、関係者の理解なしに処理水の処分は行わないと約束していたはずだ。この約束をほごにすることは許されまい。

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