朝ドラが描いた戦場 塚崎謙太郎

西日本新聞 オピニオン面 塚崎 謙太郎

 音楽で人を戦争に駆り立てることが僕の役目か? 若い人の命を奪うことが僕の役目なのか? 音(おと)、僕は音楽が憎い (作曲家、古山裕一)

 1944年、日本軍はインド北東部のインパール攻略作戦を展開。補給なき戦場では、飢えや病で3万人以上の将兵が命を落とした。古山は音楽慰問でビルマ(現ミャンマー)を訪れた際、戦闘に巻き込まれ、戦争の真実を知る。戦時歌謡や軍歌を多く手掛けた自身の責任を痛感し、作曲できなくなった時、妻の音に向かって絞り出した言葉。

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 作曲家古関裕而をモデルにしたNHKの連続テレビ小説「エール」。主人公のせりふを、本紙で連載してきた「言葉を刻む」に取り上げるとすればこんな形になるだろうか。第90回(16日放送)の終盤で登場したせりふだ。

 この回を含め、太平洋戦争の凄惨(せいさん)な現実を真っ向から描いた第18週「戦場の歌」(12~16日放送)は「テレビドラマ史に残る」と大きな反響を呼び、深夜の一挙再放送も決まった。私も、この週はテレビの前で身じろぎもせず、見終わると放心状態になった。監督した吉田照幸さん(北九州市出身)は「このドラマで最も描きたかった時代です」とツイッターに書いた。

 戦後75年を迎え、戦争体験者が年々減る中、戦争の現実と真実をどう伝えるか。記者が本紙の過去記事や取材ノートなどから印象に残る言葉を選び抜き、5月から始めた連載「言葉を刻む」は先日100回を迎え、終了した。

 私たちが連載に込めた思いと、ドラマスタッフや窪田正孝さん、薬師丸ひろ子さんら俳優が「戦場の歌」に込めた思いはきっと相通じている。記者として、ドラマの作り手として、75年を経ても手を替え品を替え、愚直にあの戦争を伝えていくという決意だ。

 今夏、デスクとして原稿に向き合う中で、ある一文に立ち止まった。<戦後75年の節目を迎え…>。誰にとって、何の節目なのか。25年刻みだから節目と呼ぶのか。ならば74年や76年は違うのか。戦争体験者にとって節目とは。同僚とも議論し、「節目」を削った。それが正解というわけではないが、節目に寄り掛かり、節目以外を軽んじそうな自分への恐れもあった。

 渾身(こんしん)の力で朝ドラが描いた戦争。私にとっては、予期せぬエール交換にも感じられた。 (社会部デスク)

 ◇「エール」第18週の再放送は25日午前2時35分から。連載「言葉を刻む」はこちら

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