きっかけは母の病気…脱サラした52歳、移動販売で奮闘

西日本新聞 くらし面 田中 良治

 高齢化が進む住宅地などに食料品や日用品を運んで「買い物弱者」を支援する移動販売に乗り出す人が増えている。新たなやりがいを求めて会社を辞め、スーパーなどと契約して起業する人も多いという。商品を積んだ軽トラックで福岡市西区と早良区を回る浅井重光さん(52)の現場を訪ねた。

 10月上旬、浅井さんが常連客の自宅駐車場に軽トラックを駐めると、ご近所が買い物かごを手に集まった。冷蔵庫などが備え付けられた荷台には野菜や果物、精肉、総菜、日用品など約600品目、1500点がぎっしり積まれている。

 5年前に運転免許証を返納したという近所の男性(81)はマグロの刺し身などを購入した。近くのスーパーまで約800メートル、帰りはきつい上り坂になる。「欲しい物はだいたいここでそろう。とても助かる」

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 浅井さんは東京に本社がある大手企業で商業施設の設計や施工を担当していたが、2017年に退職して福岡に帰郷し移動販売を始めた。母親の病気がきっかけだった。

 母親は15年秋ごろから買い物に行けなくなり、食料品や日用品は宅配サービスで買い求めた。だが、誤って同じ物を頼んだり注文を忘れたりと、慣れずに苦労した。

 帰省した時に買い物に困る母親を見ていた浅井さんは、「同じように困っている人がいるなら、力になりたい」と移動販売を始めることを決意。16年に亡くなった母親には利用させてあげられなかったものの、家族の理解も得て、一歩を踏み出した。

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 浅井さんは移動販売のノウハウを提供する「とくし丸」(徳島市)の紹介で、同社が提携するスーパー「サンリブ」(本社・北九州市)と個人事業主の「販売パートナー」として契約。サンリブ木の葉モール橋本を拠点に半径約3キロの範囲を受け持つことになった。

 サンリブの担当者と、高齢者の多い丘陵の住宅地を中心に約1カ月戸別訪問して需要を調査。顧客約120戸の見込みを得て昨年7月、開業にこぎ着けた。

 営業は週6日。毎朝7時前には店に行き、軽トラックに商品を満載。曜日ごとに定めたルートに従って午後5時までに約20カ所を回る。行程は分刻みで、昼食をゆっくり取る暇もない。

 訪問先は週2回は必ず回る。顧客の好みは納豆の粒の大きさまでメモ帳に書き込む。コースによって積み荷を変え、「次これを持ってきて」の要望にも迅速に応じる。想像以上に体力的にはきつい。だがトラックの周りでお客さんたちが世間話で盛り上がりながら買い物を楽しむ姿が、何よりもうれしい。「お世話になっているお客さまやお店に感謝しながら、続けられるだけ頑張りたい」と語る。 (田中良治)

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