どう「現状維持」の旅をするのか? 映画「空に住む」青山真治監督

西日本新聞 内門 博

 代表作「EUREKA ユリイカ」(2000年)で、犯罪被害者の心の軌跡を描いた青山真治監督の新作は、両親を亡くした後、タワーマンションで暮らし始める女性の話。今回は両親の死という「喪失」からの「再生」ではなく、「現状維持の旅」を描いたそうです。背景には、16年の熊本地震、17年の九州豪雨の被災地で失われた風景への思いもありました。

 -冒頭部で、主人公小早川直実(多部未華子さん)の両親の死が提示されます。遺影のない位牌(いはい)が印象的でした。

 ★青山 今回は親が死ぬ、葬式をやるなどの喪失の描写を捨て次のステップから始めた。すると、過去をほぼ引きずらない「現状維持」を描くしかない。どう現状維持の旅をするのか? が今回やりたかったことの一つだった。

 -監督自身も近年、ご両親や、初期の代表作を撮影されたカメラマンのたむらまさきさんなど近しい人たちが逝去されています。

 ★青山 この数年で地震や水害で「ユリイカ」の撮影地(熊本県阿蘇市や福岡県朝倉市など)も一変した。改めて訪ねてはいないけどニュース映像などで見て、風景も何もかもが土台から壊れ、消され、更新されていく、という意識が強くなった。それが現状維持という、変わっていくことをまるごと受け入れる感覚につながった。この主人公が生きようとしているのは、喪失をポジティブに積極的に受け入れていく時間なのかもしれない。

 -監督は一方で「Helpless」や「共喰い」などの作品で、物語の背景に昭和天皇など歴史的文脈を潜ませることも多かったのですが。

 ★青山 歴史的部分は一度置いて、現状を点でとらえたかった。今回は僕自身、過去の映画を参照していない。今までは、このシーン、ショットは、あの映画のあそこからもらおうということもあった。今回は、俳優が今こうやってるからこういうショットでとらえよう、ということだけに集中した。

 -高層マンションに住む主人公が古民家をオフィスとする出版社で働く設定もユニークでした。

 ★青山 田舎の古民家で横長の平屋。みんな床に座って仕事をしている。そんなところ今どきあるのかという(笑)。縦長の空間に住む人が横長の空間で働くことでイメージを対比させました。

 -猫のハルも映画の中では重要な位置を占めています。

 ★青山 ま、僕も何匹かの猫の死を見送っているんで、猫のことは知らないわけではない(笑)。撮影の不確定要素としてこれは敵だよね、って警戒して決戦にのぞんだら…天才だった。キャメラを向けた瞬間にひょいとソファの上に乗っかってくれるとか。いちいち天才! とか指さしながら撮りました。原作者の小竹正人さんは、小説を書いた最大の動機は飼い猫の死だったと切々と訴えられました。僕自身は猫の死を進んで題材にしようとは思ってなかったが、今回、原作者を味方につけて猫の死を描けてよかったです。

 -主人公が恋愛関係にあるスター俳優・時戸森則(岩田剛典さん)を本作りのためにインタビューするシーンも面白い。

 ★青山 恋人同士が問答をする様も恋愛の一つの形ではないのか、っていう思いが芽生え、それを具体的にやるとどうなるかという実験です。向こう(俳優)からこれはどういう意味なのか、おかしいんじゃないかということが出てきそうなせりふを言わせてるのに、彼らは疑問を持たずに演じてくれた。何て聡明(そうめい)な人たちなんだと思いながら演技を見てただけでした。

 -直実の時戸へのインタビューにもある質問を最後にします。あなたの夢は何ですか?

 ★青山 来年も再来年も毎年のように新作を作ること。それにつきます。こうやって取材を受けるのも含めて、映画を作るのが楽しくてしょうがない。映画を完成して公開にこぎ着けるまでは折り返し地点。完成後に宣伝で各地を回って、いろんな人に出会って、感想や解釈を聞いて気づかされる過程も映画づくりだと思う。作り手がこういう形で受け手の反応を直接楽しめるのは、他の芸術表現にはない映画の強み、面白みでしょう。魅惑的な時間を今、久しぶりに味わっています。

 (文・内門博、写真・諏訪部真)

 ▼あおやま・しんじ 1964年7月13日生まれ。北九州市出身。96年、同市を舞台にした「Helpless」で長編映画デビュー。2000年、「EUREKA ユリイカ」で、カンヌ国際映画祭コンペティション部門の国際批評家連盟賞とエキュメニック賞。その他の作品に「チンピラ」「月の砂漠」「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」「サッド ヴァケイション」「東京公園」「共喰い」など。小説も手掛け、「EUREKA」で三島由紀夫賞。約7年ぶりの新作映画「空に住む」は、作詞家小竹正人さんの小説の実写化。

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