ゲノム編集 国際ルールの整備を急げ

西日本新聞 オピニオン面

 画期的技術であることは間違いない。同時に、活用には極めて慎重な姿勢も欠かせない。

 今年のノーベル化学賞は、生物のゲノム(全遺伝情報)を編集する技術「クリスパー・キャス9」を開発した欧米の女性研究者2人に決まった。「生命科学に革命的なインパクトを与えた」技術と評価された。

 九州大の石野良純教授らが30年以上前に粘り強い研究で特定した大腸菌の遺伝情報が開発の土台となった。直接の受賞ではないものの、その功績に拍手を送りたい。基礎研究の大切さを改めて示した例と言えよう。

 クリスパー・キャス9の特徴は、一定の基礎知識があれば大学生でも簡単にゲノム編集が可能なことだ。文書を編集するように、狙った遺伝子を除去したり、別の遺伝子に置き換えたりできる。ゲノム編集の効率が劇的に向上した。

 食品生産へ導入する研究が始まっている。高血圧を抑えるトマト、収量の多い稲、肉量が多いマダイ…。望み通りの個性を与える研究開発である。

 政府も市場への流通を後押しする。厚生労働省に情報を届け出れば、厳格な安全審査なしに販売を認める方針だ。外来遺伝子を組み込まなければ、生産者や販売者にゲノム編集食品との表示を義務付けないという。

 こうした対応に、不安を抱く声がある。不十分な情報開示は消費者の不信を招き、結果的にゲノム編集食品の普及の障壁ともなる。政府は消費者の視点に立ち、規制や情報開示の在り方を不断に見直すべきだ。

 人の細胞のゲノム編集も可能で、がんやエイズ、白血病などの治療法研究も始まっている。受精卵の改変で遺伝性疾患を防ぐことも期待されるが、親が望む容姿や体質を持つ「デザイナーベビー」の誕生につながる懸念もある。ゲノム編集で想定外の異変が生じれば、世代を超えて伝わる危険もある。

 米科学アカデミーなど国際的な専門家の委員会は今年9月、受精卵などの遺伝子を操作し、人を誕生させるにはまだ技術が未熟で医療応用すべきでないとの報告書を公表した。日本も国の指針で、基礎研究などに限って受精卵のゲノム編集を認めており、子宮に戻すことを禁じている。ただ法規制はなく、実施しても罰は受けない。

 多くの食品は国境を越えて流通する。日本から卵子提供などの生殖医療を受けるために海を渡る人もいる。

 日本を含め各国が規制や監督体制を整備するとともに、国際的なルールや情報共有の仕組み作りを議論すべきだ。多くの恩恵をもたらす革新的技術も使い方を誤れば、災いの種となる。

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