【食の不均衡に挑む】 松田美幸さん

西日本新聞 オピニオン面

◆自炊力が未来を変える

 10月30日は食品ロス削減の日だ。日本で食品ロス削減推進法が施行されて1年、基本方針が閣議決定されて半年が経過するが、まだまだ浸透していない。

 16日は世界食糧デーで、世界の飢餓や栄養不足と解決策について考える日だったが、その1週間前に、今年のノーベル平和賞が、世界食糧計画(WFP)に授与されることが発表された。紛争の武器として飢餓が利用されるのを防ぐ力になったという評価からだ。世界が注目するノーベル平和賞により、「食の不均衡問題」にも国内外で関心が高まることを期待したい。

 WFPによれば、地球上のすべての人が食べるのに十分な食料が生産されているにもかかわらず、世界の9人に1人が飢餓に苦しむ一方で、食料生産量の3分の1が捨てられるという。日本で1年間に廃棄される食品は612万トン。これはWFPが世界で支援する420万トンの食料の約1・5倍に相当する。

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 WFPは、飢餓と闘い、緊急時に食料援助を行う人道支援機関だが、母子栄養支援や学校給食支援などで、栄養状態の改善にも寄与している。

 新型コロナウイルスの影響で、世界中で学校が休校になり、食事を給食に頼っていた子どもたちに対し、WFPは新たな対応を迫られた。「学習はオンラインに移行できても、給食はオンラインで食べられない」と、食料の宅配や現金または食料引換券の提供などで、子どもたちの命をつないでいる。

 残念なことに、経済的に豊かな日本でも、1日の食事の量も栄養面も学校給食に頼らざるを得ない子どもたちがいる。これも食の不均衡だ。皮肉にも、コロナによる突然の休校で、そういった子どもたちの存在が顕在化し、一方で家庭環境にかかわりなく、保護者は学校給食の恩恵を再認識することになった。

 日本の学校給食は海外からの評価が高い。おいしくて栄養バランスの取れた食事を提供するだけでなく、健康的な食習慣と味覚を持たせたり、地元の食材について学んだりといった食育の機会でもある。学校に栄養教諭が配置されている国は世界でも珍しい。日本で子どもの肥満が少ないのは、学校給食のおかげという研究報告もある。

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 食育は学校給食にとどまらず、「食を通じた地域との交流」により、子どもたちが自立する力を獲得する取り組みにも広がっている。食べているものがどこから来ているかを学び、捨てることなく「命をいただく」態度とスキルを身につける機会になる。

 子どもたちが食料の買い出しから料理まで自分で考えて作る「弁当の日」という取り組みがある。2001年に香川県の小学校で始まり、全国の小中高校や大学に広がっている。取り組みをドキュメンタリーにした映画も近く公開される。

 福岡県福津市立福間校区の小中学校でも、コミュニティースクール活動の一環として「弁当の日」に取り組んでいる。中学校に地域の大人をゲスト講師に招く授業では、映画「弁当の日」の監督である安武信吾さんの話を聞いた。生徒たちから、「未来の自分のためにも、自分で弁当をつくりたい」といった声が上がった。

 食の不均衡の解決へ向けて、世界では新しい動きも生まれている。食ビジネスに技術を掛け合わせる「フードテック」の分野だが、日本不在ということが気がかりだ。

 未来を生きる子どもたちに欠かせない自炊力。台所に立つことで、食と命のつながりを見つめ、世界の「食の不均衡」の解決に向けて、大人たちの想像を超える解をみつけてほしい。

 【略歴】1958年、津市生まれ。三重大教育学部卒、米イリノイ大経営学修士(MBA)。2017年12月から現職。福岡県男女共同参画センター「あすばる」の前センター長。内閣府男女共同参画会議議員、経済産業省産業構造審議会臨時委員。

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