内モンゴル、奪われる言葉と誇り…「漢語教育強化」当局の弾圧厳しく

西日本新聞 国際面 坂本 信博

 中国の内モンゴル自治区をはじめ6省・自治区の少数民族が通う小中学校で今秋から、モンゴル語など少数民族言語を使う授業を大幅に減らし、標準語(漢語)教育を強化する改革が始まった。習近平指導部による少数民族の漢族同化政策が背景にあるとみられ、内モンゴル自治区では抗議デモに参加したモンゴル族の保護者や教員が弾圧されているという。区都フフホトに入り、現状を探った。(フフホトで坂本信博)

 「中華民族は一つの家族。共に中国の夢を築こう」。市内の幹線道路にある巨大な電光掲示板に、中国語とモンゴル語を併記したスローガンが流れていた。食堂や商店などの看板にも両言語が並ぶ。内モンゴル自治区の面積は日本の約3倍。人口約2400万人の8割超が漢族で、モンゴル族は約400万人が暮らす。

 タクシーに乗って男性運転手と雑談するうちに、小学4年の子どもがいると分かり、教育改革について尋ねた。「9月からモンゴル族の小中学校1年生は国語の教科書がモンゴル語から標準語に変わった。来年から道徳と歴史も標準語の授業になる」と話し、言葉を継いだ。「内モンゴルを出たら生活や就職に不便だから、標準語を話せるようにするだけだよ」

 抗議デモについて聞くと「…それはデマ」と答え、車載カメラを指さした。「乗客とのやりとりは会社にチェックされる」。そう言った後は寡黙になった。

 書店や文具店が集まるエリアにモンゴル語専門の書店があった。男性店主に教育改革の話題を振ると「没問題(メイウェンティ)(問題ない)」と繰り返して「モンゴル語の授業も残っている」と話した。表情が硬く、周囲の目を気にしている様子だった。

 店を出て、2人組の男に尾行されているのに気づいた。公安当局だろうか。大通りを歩行者用信号が赤になる直前に走って渡る。振り返ると男たちがこちらを見つめていた。タクシーに乗り、その場を離れた。

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 モンゴル料理店に入り、客が他にいなくなったのを見計らって店主の男性(50)に話を聞いた。中学3年の娘がいるという。「モンゴル語の授業が減るのは不満。モンゴル語を話せない若者は増えているし、自然消滅は仕方ないけど、それを政府が加速させるのはおかしい」とこぼした。

 9月初めにモンゴル族の生徒たちが教育改革に抗議するデモをしたとされる内モンゴル師範大付属中を訪ねた。校門前にはパトカーが止まり、複数の警察官が周囲に目を光らせている。

 夕方まで待って、学校から少し離れた場所で下校中の生徒に声をかけた。抗議デモについて尋ねると「教科書のことで不満を持つ生徒たちが抗議活動をしました」。そこまで聞いたとき、近くに停車中の黒塗りの車から降りてきた3人の男に囲まれた。「取材か? パスポートと記者証を見せて」。公安当局者だった。1人は小型ビデオカメラでこちらを撮影している。

 海外メディアに応対する自治区政府の外事弁公室の職員が来て無事に解放されたが、当局が神経をとがらせ、記者や市民を監視しているのを肌身で感じた。

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 当局の監視をかわし、フフホトに住む女性教員から証言を得ることができた。

 彼女によると、9月に教育改革が始まる前後、保護者や教員らが抗議の声を上げ、子どもたちは授業をボイコットした。地元放送局の従業員約300人もストライキを起こして抗議した。

 警察はデモに参加した保護者ら100人以上の顔写真をインターネット上に公開。出頭を呼び掛けたり、1人千元(約1万5800円)の懸賞金付きで情報提供を求めたりして摘発に乗り出した。「違法な抗議活動をした」「ネットで人々を扇動した」として、当局がウェブサイトなどに公表している分だけで、9月下旬までに少なくとも170人以上が逮捕された。

 会員制交流サイト(SNS)のモンゴル語のチャットグループは突然閉鎖され、子どもを登校させない家庭への懲罰も実施された。公務員は解雇され、牧畜業の親への補助金は打ち切られた。登校しない生徒は退学処分になった。一方で、子どもの登校率が高い地域には2万元(約31万5千円)の報酬が給付された。

 体調不良を理由に子どもを休ませた親もいたが、「内モンゴルに安全な場所はありません」と女性教員は訴える。「監視カメラが各地にあり、携帯電話やメールの交信はすべて当局に監視されています。密告も推奨し、抗議活動は2週間でほぼ鎮圧されました」

 悲嘆に暮れて自ら命を絶つ人も出た。9月4日には西部のアルシャーで女性公務員(33)が、13日にはモンゴル国との国境近くのエレンホトで女性教員が自死した。「彼女たちの死や政府のやり方をどう受け止めるか。モンゴル族でも、教育改革の影響を受ける子どもがいる家庭かどうかで温度差がある」と指摘する。親族で意見が分かれたり、漢族の夫と不仲になったりした人もいるという。

 モンゴル族の友人は、漢族と同等の立場を得るため中国語を学び、医師になって漢族の夫と結婚した。少数民族の出自を消したいとすら思ってきた。しかし教育改革を知った後、60代の入院患者が話す伝統的なモンゴル語を聞いて「美しい母語をいずれ聞けなくなると思うと涙がこぼれた」と打ち明けたという。 女性教員は「私は中国政府を甘く見ていた。ウイグルや香港への弾圧を聞いてもどこか人ごとと思っていました」と話し、力を込めた。「暮らしの中でなるべくモンゴル語を使い、子どもたちに教え、母語を守ります」

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