政治と言葉と風見鶏 久保田正広

西日本新聞 オピニオン面 久保田 正広

 今月中旬、中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬を伝える報道で小泉純一郎元首相が献花する姿に、かつて担当したある記事を思い出した。

 2002年2月2日付の本紙朝刊2面の大見出しは「小泉政治 異端にして先端」。

 当時、小泉首相の「指南役」を自任していた中曽根氏と本紙編集局長の対談記事。2人のやりとりを録音しながら取材し、紙面化した。

 中曽根氏は小泉政権を「保守政治の異端にして、時代の先端」と表現。そのまま見出しになった。分かりやすくシャープで韻も踏んでいる。

 さすがは政界一の風見鶏。80歳を超えても、なかなかうまい言葉を使うものだ-と感心させられた。中曽根氏もこの表現は気に入っておられたとのことで、後援会向けの印刷物に本紙記事が転載されたことをよく覚えている。

 この翌年の10月、中曽根氏は小泉首相に衆院議員引退を迫られ、屈辱を味わう。その際の怒りの言葉が「これは政治的テロだ」。聞く者の心に残る言葉をいくつになっても繰り出せる政治家だった。

 私は冒頭の対談記事の他にも中曽根氏のインタビューを記事にする機会に恵まれた。そのたびに驚いたのは、こちらが届けた原稿の素案に対する中曽根氏の返信のファクスである。背筋が伸びたような読みやすい手書きの文字で、言い回しや言葉についての手直しが挿入されていた。

 最初は事務所の秘書の仕事かと思い、お手数をかけたと謝意を伝えると、秘書は「この種の作業は(中曽根)代議士本人がいたします。私らは何もしていません」。

 自分がメディアを通じ社会にどのようなイメージを持たれるか、そこに大きな関心を持つ。政治家・中曽根氏の分析に共通する点の一つだ。

 今の政治家なら当然の心得かもしれない。だが中曽根氏の世代は細かな原稿の手直しなど秘書任せという政治家も少なくなかった。首相の座を退いて久しい立場にもかかわらず、そうしたことに手を抜かない姿に、自らの言葉への強いこだわりを感じた。

 中曽根首相時代の有名な発言に1983年訪米時の「不沈空母」がある。日本列島を対ソ連の防壁にする覚悟を示したとして米国で高く評価され、日米関係は好転する。

 実は「不沈空母」との言葉を中曽根氏は使っていない。「大きな壁を持った巨大な船」という表現を通訳が意訳したものだ。日本国内は騒然となったが、あえて訂正させず自らの発言として政治を動かした。政治家の言葉と、その虚と実を考えさせられる。

 (論説副委員長)

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