王室改革から逃げるタイ国会 与野党とも言及回避、デモ沈静化遠く

西日本新聞 国際面 川合 秀紀

 【バンコク川合秀紀】反体制デモが続くタイで26、27日、対立解消に向けた臨時国会が開かれた。学生らが訴える要求の柱は王室改革。タブーだった王室の議論が国会で実現すれば憲政史上初だったが、与党どころか最大野党でさえ、まともに取り上げないまま終了。民主主義の要である国会が問題の核心から避ける姿は「タイ式民主主義」の限界を露呈した。

 タイ人が政治を語る際、こんな言葉がある。「闘いながらひざまずく」。どんな政治勢力も王室の権威に勝てないことを指し、転じて「権威を利用する」との意味でも使う。

 昨年5月のワチラロンコン国王戴冠式。記者は炎天下、多くの市民と地面に座って国王の行列を待った。偶然、隣にいたのが直前の総選挙で第1党になった最大野党タイ貢献党の当時の実質リーダー、スダラット氏。「ここに来るのは国民として当然」。国王が通ると、彼女はひざまずいたまま「国王万歳」と叫んだ。

 同党は軍事クーデターで政権を追われたタクシン元首相派だ。タクシン氏は反対勢力から「反王室」と攻撃されたこともあったが否定し、王室支持を強調。昨年総選挙では別のタクシン派政党が王女を首相候補に擁立しようとした。政治にとって、憲法が不可侵とうたう王室の権威は絶大だ。

 臨時国会でも、貢献党議員らはプラユット首相辞任と憲法改正は迫ったが、王室改革にはほとんど触れず、王室の車列がデモに妨害された問題で警察を批判する程度。ある中堅議員は「王室に触るのは怖い。言えないんだ」と明かす。与党も「王室批判は許されない」などと議論を拒否した。

 唯一、野党の前進党議員が「対立解消には王室改革の議論が必要」と訴えた。前身は総選挙で若者の人気を得て第3党に躍進したものの、憲法裁判所から解党処分を受けた新未来党。8月に激化したデモの始まりは解党に怒った学生の抗議活動だった。結局、臨時国会は「対立解消」より、王室批判は野党支持の一部の若者が訴えているだけ、と印象付ける場になった。

 もちろん実際の声はもっと多様だ。反体制デモに参加したタクシン氏支持の会社員ウィットさん(47)は王室支持派が着る黄色のシャツを着ていた。「王室を愛しているからこそ改革すべきなんだ。私のような中高年も、タクシン派にも同じ考えの人は多いはずだ」

 多くの市民が改革を求める背景には、王室の不透明さがある。国王の指導で当局は不敬罪による摘発を控えているのに、なぜ同罪を廃止しないのか。巨額の王室関連資産をなぜ国の管理から国王直轄にしたのか。なぜ国王は大半をドイツで過ごすのか…。こうした疑問に王室と政権は答えず、国会も議論から逃げた。

 与党議員は「デモの狙いは王室廃止」と主張し、首相は「批判するならタイから出ればいい」とよく口にする。ワチラロンコン国王も反体制デモに単身参加した王室支持の男性を「勇気がある」とたたえた。

 議論を避け、批判者に「過激な反動分子」というレッテルを貼って峻別(しゅんべつ)する姿勢こそが、さらなる批判とデモを招くことに気づいていないのだろうか。

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