水害リスクのある土地、今後を考える 筑後川が育んだ「次郎物語」から

西日本新聞 くらし面

新局面 災害の時代―後悔しない備え(26)

 読書の秋に、みなさんはどんな本をお読みですか。

 私は小学生の時、読書感想文の推薦図書の一冊だった「次郎物語」を読みました。中学生になって続編5部まで読み、大ファンになりました。第3部に主人公が兄らと「無計画の計画」で「筑後川の上流探検」を強行する章があり、九州がメイン舞台の小説です。

 6年前に九州大に赴任して一番に行きたかったのが、佐賀県神埼市にある作者下村湖人の生家でした。大学人としても、良質な教育書というだけでなく、今の時代に改めて読み返したくなるシリーズです。

 さて、憧れのその生家は筑後川の支流、田手川沿いにありました。水田とクリークに囲まれ高低差がほとんどないのに驚きました。職業柄、「こりゃ、洪水になったら水がはけなくて大変だ」と家のリスクを査定しました。整備の進まない内水氾濫のハザードマップが欠かせない地域です。高低差がないため、有明海の満潮時には逆流しやすいことも察せられました。

 昨年8月に佐賀を襲った豪雨の際、あのとき感じた懸念を思い起こし、海抜の低い土地のわりに大きな災害が長い間起きていなかったことで油断を招いた-そんな考えを巡らせました。

 ところで筑後川は、日本の三大暴れ川として坂東太郎(利根川)、四国三郎(吉野川)とともに筑紫次郎と呼ばれます。物語の主人公、次郎は筑後川を指しているのかと考えさせられました。確かに次郎の幼少期の暴れっぷりから第1部は戦時中、「自由主義、非教育的」と批判されたので。

 生涯の師の朝倉先生、尊敬する友の大河無門など流域の地名や川にちなんだ登場人物が満載で、筑後川が作者と物語を育んだことがうかがい知れました。

 この夏、その暴れ川、筑後川の本流がとうとう氾濫しました。2017年九州北部豪雨以降の豪雨災害は地形条件を一変させるほどのすさまじさ。人智を超えており、もはや土木では制御できなくなっています。

 私は、京都大大学院の地球環境学博士課程を通して学んだ「温暖化に伴い土地を捨てなければならない棄民や環境難民の出現」が、遠く離れた海抜の低い国や砂漠地帯だけでなく、身近な九州で起きている事実に向き合わざるを得なくなったと感じています。

 先日も市民の方から「避難せずにすむよう2階から3階に住み替える程度でよいか」と質問されました。確かにそれでは、その場しのぎでしかないでしょう。自分が住む土地条件にどんなリスクがあるのか、複合災害に遭う可能性も考慮し、家族が年齢を重ねていくのに合わせ、体力、財力も踏まえて、個々人で家を住み替えていくほうが安心できる時代なのです。

 まちづくりも一つの自治体単独ではなく河川流域の複数の自治体、住民とともに、どう水防を図るのかコンセンサスを得ながら「事前復興計画」を立てて取り組まなければなりません。

 (九大准教授・杉本めぐみ)

 ◆備えのポイント 「事前復興」とは、災害が発生した際のことを想定し、被害の最小化につながる都市計画やまちづくりを推進すること(ウィキペディアより)。

 ◆すぎもと・めぐみ 京都府生まれ。京都大大学院修了。東京大地震研究所特任研究員などを経て、2014年度から九州大助教、20年度から准教授(男女共同参画推進室)。専門は防災教育、災害リスクマネジメント。在インドネシア日本国大使館経済班員として2004年スマトラ沖津波の復興と防災に携わる。「九州大学平成29年7月九州北部豪雨災害調査・復旧・復興支援団」メンバーとして福岡県防災賞(知事賞)受賞。編著に「九州の防災 熊本地震からあなたの身の守り方を学ぶ」。

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