日本で最強の“鬼”とは?伝説の地を訪ねてみると…

西日本新聞 塚崎 謙太郎 小川 祥平

 「めつやいば」は社会現象となり、勢いはとどまるところを知らない。鬼と戦う少年の成長と友情を描いた物語の舞台は大正時代の日本だが、果たして現代の日本に鬼はいるのか? いるとすれば、どんな姿なのか? 2015年の連載「今を、呼吸」から、「鬼」について考察した前後編を復刻します。

 頭には角、丸い目玉に鋭い牙。筋骨隆々でこん棒を握りしめる、鬼。秋田では大みそかに「なまはげ」が現れる。正月になると九州各地で「鬼火」が行われ、太宰府天満宮では「鬼すべ」。節分には、大分・国東半島でしゅじょう鬼会が催される。正月や旧正月は一年で最も多く鬼が現れる時期だが、今、それ以外の時期には見かけなくなったような気もする。あらためて考えてみる。鬼はどこにいるのか?

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 2014年に最も注目を集めたテレビCMには鬼が登場する。炭酸飲料「ペプシNEX ZERO」のCMは、俳優小栗旬さんふんする桃太郎が、村を破壊し、すべてを奪い尽くす“悪”の象徴、鬼にリベンジするストーリーだ。キャッチコピーは「自分より強いヤツを倒せ」。CGを駆使した鬼は巨大で溶岩の塊りのような外見。体内からは今にもマグマが噴き出しそうで、迫力十分。国内最大の広告賞も受賞した。

 スマートフォンのアプリ「鬼から電話」は2012年の発売以降、760万以上のダウンロードを記録している大ヒット商品だ。起動すると鬼から電話がかかり、牙をむきだしにした鬼が「もしもしあかおにです。お子さんに電話代わってもらってもいいですか」。徐々に機嫌が悪くなり「こら! なんで言うこと聞かないんだ!」と激高。最後には「今からお家に迎えに行くから待ってろな」と脅す。制作したメディアアクティブ(東京)の佐々木孝樹社長(35)は秋田出身で、幼少期の経験が開発のきっかけという。「言うことを聞かないと親から『なまはげが来るぞ』と言われた。鬼は怖い存在。親たちは代々語り継いできたんです」と語る。

 「『鬼の主任』はやっぱり鬼でした」。昨年10月、福岡市であった外国人技能実習生対象の日本語作文発表コンクール。中国出身のしゅんねいさん(24)は作文「仕事の鬼」を身ぶりを交えながら読み上げ会場を沸かせた。于さんは昨年7月からシーツのクリーニングなどを手掛ける「玉屋リネンサービス」(同市)で働く。未経験の仕事だったが、職場の上司は「一を教えたら十学べ」と突き放し、ささいなミスでも怒鳴る。最初は反発していたが、私生活で上司の優しさに触れ、次第に引かれていった体験を披露、最優秀賞を射止めた。于さんは今、実感している。「仕事で成長するためには鬼が必要。でも鬼になるには心の強さがいる。中国でも鬼は減っています」

 人を「鬼」に見立てた比喩表現も移ろう。漫画「アタックNo.1」には鬼コーチ、ドラマ「スチュワーデス物語」には鬼教官がいた。プロ野球ヤクルト、近鉄で活躍したマニエルは「赤鬼」と異名をとった。人気ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」は1990年に始まったが、全シリーズが4年前に終わった。徒弟制度が色濃く残ると言われる新聞社だが、職場を見回しても原稿用紙を破り捨てるような鬼上司は少なくなったような気がする。

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