鬼は今、どんな姿か?「ネットにうじゃうじゃいる」

西日本新聞 塚崎 謙太郎 小川 祥平

「今を、呼吸」後編

 うっそうと茂る木立の中、鳥居の横にはこん棒をもった巨大な赤鬼が、門番のように立っていた。

 九州各地にも、鬼の伝説が残っている。近年、九州随一のパワースポットとして人気を集める天孫降臨の地・南九州。つま霧島神社(宮崎県都城市)もそのひとつだ。「鬼とは逸脱」だと、国際日本文化研究センター所長(京都市西京区)の小松和彦さん(67)=注1=は話した。人間の常識から逸脱したものだけが持つ圧倒的なパワーが、ここに宿ると信じられてる。

 鳥居から本殿へ、巨大な石を積み上げた急坂の階段が続いている。「おにいわ階段」は霧島の鬼たちが一夜にして積み上げたといわれ、願い事を唱えながら後ろを振り向かずに最後まで登ると願いがかなうという。赤鬼の前で手を合わせていた20代の女性はパワースポット巡りで立ち寄った。「友人に教えてもらいました。ほんとに鬼じゃなきゃ作れないような階段ですよね」と石段をゆっくり登っていった。県外からやってきた40代の夫婦も「鬼のパワーって、きっと別格でしょうから」と笑顔を見せた。鬼と呼ばれ、恐れられながらも、鬼の別格のパワーは人々からあがめられてきた。鬼は神でもあった。

 「鬼とは人間自身の中にある」。そう思いながら、鬼を追いかける人もいる。九州を拠点に絵を描き続けているアーティスト三日月電波さん(40)=福岡市、本名・西尾聡=。15年ほど前から各地の伝承を素材に絵を描く“妖怪絵師”として活動し、鬼の古里・京都の大江山にある「日本の鬼の交流博物館」でも個展を開いた。

 鬼はどこにいるのか、という問いに「鬼とは結局、人間自身の中にある闘争本能や攻撃性を指しているのではないでしょうか」と三日月さんは答えた。だが現代の鬼は、人々から目を背けられていると感じている。「人は友情や絆という優しくてきれいな言葉で本能や攻撃性を覆い隠し、他人に見せないようにしているだけ。インターネットを見ればうじゃうじゃと鬼がいるでしょう」

 オニという言葉は、姿が見えない何かという意味の「おん」や「おん」という音が転じたともされる。「北野天神縁起絵巻」で雷を発生させる雷神が鬼のイメージで描かれたように、古来、人びとは恐ろしくて分からないものを鬼に形象化することで了解してきた。人にとって「分からないもの」とは力が強くて、大きくて、圧倒的な存在だった。だが時代が進み、文明が発展していくと、不可解なものや理解の範囲を超えた存在、そして鬼は人の暮らしから次第にこぼれ落ち、後景化していった。 

PR

文化 アクセスランキング

PR

注目のテーマ