【動画あり】「悔しい」丹精込めた酒、捨て続け…豪雨で15万2000本被害

西日本新聞 大分・日田玖珠版 吉田 賢治

 酒瓶が次々にひっくり返され、タンクに大量に注がれていく。丹精込めて造り、出荷を待つばかりだった商品の廃棄処分。それは、従業員たちの悲しい作業だった-。7月の記録的豪雨で商品倉庫が浸水被害を受けた大分県日田市大鶴町の老松酒造。泥水をかぶった焼酎や日本酒、リキュール類は総計で約15万2千本にもおよび、廃棄処分は10月末になってもまだ続いていた。

 老松酒造の創業は寛政元(1789)年。松の老木がある老松神社の湧き水を使ったのが名の由来とされる。伝統を守りながら個性ある酒造りへの挑戦も続け、全国にファンは多い。

 7月の豪雨では本社工場に被害はなかったが、市内の約5キロ離れた場所に立つ商品倉庫は、腰の高さまで浸水した。新品の酒瓶約40万本が保管されており、山積みケースの下の半分近くが泥水をかぶった。水が引いた後に調べると、ラベルが損傷しただけでなく、王冠と瓶の間に小さな汚れが挟まった商品もあった。

 全国のファンからは「被害品でも引き取りたい」との応援の声も届いた。それでも製造部長の平川啓介さん(55)は「口に入れるものなので、メーカーとして自信のない商品は出せないと判断し、被害品の全量廃棄を決めた」と語る。少しでも流通させてしまえば、悪評が流れて信用失墜につながる恐れも考慮した。

 廃棄処分が長期に及んでいるのは、大量の商品を一気に失った影響で、製造ラインをフル稼働させているため手が回らない事情があった。作業は休日を中心に行わざるを得なかった。

 被災から4カ月近くたった週末、従業員約10人が工場に集まった。山積みされたリキュール瓶のケースから一本一本を取りだして王冠を開ける人、瓶を逆さにしてタンクに注ぐ人、空き瓶を回収する人と役割分担しながら、誰もが黙々と廃棄作業に打ち込んだ。辺りには甘い香りが充満した。

 「みんな悔しい思いでいっぱいなんです。おいしく飲んでもらおうと、全員で懸命に造ったお酒ですから」。瓶と瓶がこすれる高い音だけが響く工場内で、平川さんも厳しい表情のままだった。

 (吉田賢治)

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