新ガリバー旅行記(40) パソコン狂時代【中村哲医師寄稿】

西日本新聞

 <2000年7~8月に本紙朝刊に掲載された中村哲医師の寄稿連載随筆「新ガリバー旅行記」(全50回)>

 今世界ではひとつの妖怪(ようかい)が徘徊(はいかい)している。パソコン、インターネットという妖怪が。便利この上ないというので、小生も乗せられてプロバイダーに加入した。確かに、カラフルな画像や音声も送られるし、書類や原稿の整理、情報の引き出しが以前と比較できぬほど速やかになった。遠いペシャワルから日本との距離がぐっと短縮したように思えた。機械音痴の私も「転向」して、しぶしぶながらその効用を認めざるを得なかった。

 ところが、何だか多忙になっただけで、実際の仕事は思ったより進まない。多彩な情報で目移りがし、これといった自信のある決断がつかない。これもある、あれもある。そこで、何々のソフトで情報を効率よく捌(さば)けるというので、またそのソフトを買う。そのうち、やれ何ギガバイトだ、ペンティアム2だ、3だ。ウインドウズだ、マッキントッシュだ。数カ月ごとにモデルチェンジ、大枚をはたいて買ったものが帰国すれば二束三文。新種ウイルスが次々と出て、またその対策ソフト。ついになけなしの小遣いはパソコンに消え、気がつけば、肝心の仕事がちっとも進まず、伝達方法や機械操作に血道をあげている。

 さらに、ペシャワルでは停電が多く、報告や原稿に関する限り、手書きの方が速い。予期せぬ停電、へまな誤操作で、コンピューター入力したものが一瞬にして消滅と言うのでは、元も子もない。インターネットでも、本当に重要な情報と、どうでもいいものと区別が分からない。プロバイダーからの知らせとか、おしゃべり代わりの通信とか、どうでもよいことがあまりに多いのであまり開かない。開くと要らぬ用事が増える。伝達技術の発達の割に中身がないのだ。

 現地は対照的だ。ジープや馬にゆられて何日もかかる診療所から苦労して届けられる連絡は、絶対に無視しない。「情報」の重みが自(おの)ずと違うのである。

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