『空の大怪獣 ラドン』天神壊滅 核、気候変動…今をも問う寓話性

西日本新聞 吉田 昭一郎

フクオカ☆シネマペディア(9)

 九州を代表する商業都市、福岡市・天神をこれほど完膚なきまでに破壊した映画の主人公がいただろうか。円谷英二の特撮映画「空の大怪獣 ラドン」(1956年、本多猪四郎監督)は子どもだましではない、今の時代にも十分通用する社会派エンターテインメント作品だ。随所にうかがえる寓話(ぐうわ)性が、今に多くを問いかける。

 撮影当時は炭鉱盛期。物語は、熊本・阿蘇の火口近くにあるという炭鉱の日常描写から始まる。やがて、炭鉱マンが坑道の奥で異常な切り傷をつくって死亡する事件が相次ぐ。原因は分からない。いつもは炭鉱事故の死傷者を担ぎ込み炭じんなどを洗い落とすのだろう、人が横たわったまま収まるほどの大きさの水張り風呂で人を洗う場面がリアルだ。

 間もなく、死傷事件は、地の底に潜む、ラドンとは別の怪物の存在が関係していると分かる。死と隣り合わせの労働の上に成り立つ炭鉱の宿痾(しゅくあ)のようなものが怪物にたとえられて、メッセージとなっているのではないか、と感じた。

 さて、ラドンだが、阿蘇のそばの地層深くから現れた。近くに炭鉱坑道が走っていて、ある落盤事故をきっかけに目覚める。研究者は2億年も眠っていたという見方を示し、当時、世界で相次いだ原水爆実験によって大地に相当のエネルギーが加わり、ラドンが揺り起こされたと推測する。

 ラドンに存在感がある。地上の人々に空から低空で迫ってくる映像の仕掛けには、ざわざわする圧迫感がある。天神のデパート「岩田屋」の上に乗っかっては上部を崩し、全長80メートルほどという翼を羽ばたかせて起こす暴風で電車が横倒しになり、西鉄街など商店街の看板や屋根などが巻き上がる場面は真に迫る。円谷特撮のクオリティーの高さを感じるところだ。多くのエキストラたちが逃げ惑う実写映像と絡めて、迫力はさらに増していく。

 なぜラドンが怒りたけったように都市を襲うのかは分からない。ちょっと飛躍して想像してみれば、いろいろと思い当たる。

 羽ばたきの暴風で店という店を全てなぎ倒す街の惨状は、核の爆風を連想し、ラドンは核の脅威のメタファーに見えた。制御不能の原子力に手を出した人類に対する地球からの警告だろうか。

 物語のはじめ、炭鉱の事務所で「今日はまた、ばかに暑いね」と、軽口ではあるが地球温暖化が話題になる場面がある。戦後復興途上の1950年代には既に問題意識が広がりつつあったのか、と驚いた。

 温暖化による気候変動の元凶とされる石炭火力になおもしがみつく令和ニッポンにあっては、ラドンの襲撃は温暖化の影響でその威力を増す台風の来襲にもまた、見えてこないでもないのである。 (吉田昭一郎)

※「フクオカ☆シネマペディア」は毎週月曜の正午に更新しています

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