数万年にも及ぶつけ 岩本誠也

西日本新聞 オピニオン面 岩本 誠也

 大阪と奈良を結ぶ近鉄奈良線を移設するための協議が奈良市で進んでいる。国特別史跡で、世界文化遺産の「古都奈良の文化財」を構成する平城宮跡を線路が突っ切っているからだ。

 この鉄道は1914(大正3)年に開業。当時、一帯は田畑だった。平城京の宮殿・平城宮が近いことは明治時代後半に分かってきたが、もっと小規模で鉄道ルートはその外側と考えられていたようだ。線路や田畑の下に広大な宮殿跡が埋まっているとは思ってもいなかっただろう。

 平城京ができたのは710年。それから長岡京に遷都するまでの約70年間、平城宮は日本の中心だったのに、時代の変遷とともにその痕跡は消えてしまった。

 人類の歩みを振り返れば、古代文明のように忘れられて埋もれたり、次の為政者によって消されたりした出来事はいくらでもある。2200年前に中国を統一した秦の始皇帝や、3300年前に古代エジプトを治めたツタンカーメン王も、副葬品や自らのひつぎが後世に掘り返され、文化財として展示されるとは夢にも思わなかったに違いない。

 もし、掘り返されるのが高レベル放射性廃棄物だとしたら、考えるだけで恐ろしい。

 原発の運転で出る「核のごみ」の最終処分場の問題。国や電力業界は地下300メートルより深い岩盤に埋める計画で、放射線量が十分下がるまで数万年にわたって人間の生活環境から隔離するという。

 火山と地震が多い国内で最終処分場の適地を探す作業は難航していたが、北海道の2町村が第1段階の文献調査に名乗りを上げ、調査が始まる見通しとなった。

 原子力発電環境整備機構(NUMO)によると、調査は3段階で20年ほどかかる。仮に立地場所が決まってもその先が長い。施設を建設し、核のごみを埋設し、坑道を埋め戻して、施設を閉鎖する。ここまで100年以上。3世代にわたるような気が遠くなる長期事業である。

 さらに将来にわたって掘り返されることがないよう手だてを講じる必要がある。数百年先、数千年先の将来世代に情報を伝えなければならない。文字や記号、モニュメントを残しては-。そんなことが国際的に、真面目に検討されている。間違っても史跡の調査や埋蔵品目当ての「墓荒らし」に遭ってはならないのだ。

 日本で原発が営業運転を始めて50年。「明るい未来のエネルギー」だった原発は、後始末に膨大な手間と時間とコストをかけなければならない。頼ったつけは数万年に及ぶ。 (論説委員)

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