新ガリバー旅行記(47) 長寿【中村哲医師寄稿】

西日本新聞

 <2000年7~8月に本紙朝刊に掲載された中村哲医師の寄稿連載随筆「新ガリバー旅行記」(全50回)>

 パキスタンの北部、フンザは昔から長寿で有名な所である。これは水のせいだとか、程よい粗食のせいだとか、諸説があって興味をそそる。このての話は昔からあり、一時はカフカス(英語名コーカサス)地方が話題となった。ヨーグルトのせいにされ、乳製品の売れ行きに一役買った。フンザの場合、自然が雄大である。何となく気分もゆったりして、都会の生活がせせこましく感じられる。しかし、長寿は疑わしいと私は思っている。

 自分の年齢を誰(だれ)も正確に言えないのだ。私の運転手はアフガン人で、もう十六年働いている。信頼性のある記録を見ると、私よりも三歳若かった。私が三十七歳で赴任した時、彼は三十五歳だと言っていた。それが数年続いてから突然四十歳と言い出し、それからまた数年刻みに五歳ずつ年を取り、二年前から長いあごひげを生やしてからは、六十歳だと主張している。本当は五十歳のはずだ。もっとも、断定的には述べず、「だいたい六十歳くらい」と表現する。自分の年齢の認識はおおよそ、こんなものだ。

 そうこうするうちに、最近私も年齢が正確に言えなくなってきた。「人生半ばを過ぎて、まともに働けるのは今のうちだ」という漠然とした感覚があるだけで、五十歳でも、五十五歳でも、どうでもよいのである。若く見せたいときは五十歳だと言い、少し年に見せたいときは五十五歳で通す。慣れると、こっちの方が楽なのだ。

 家内は私より七つ若いはずだから、逆算して四十三歳か四十八歳かのいずれかになる。しかし、この違いは日本女性には大変な開きのようで、喜ばれたり叱(しか)られたりする。それで、最近は日本では五十歳説、現地では五十五歳説を採用している。しかし、正確な年齢からすれば、本当の長寿国は日本。なにしろ、医療福祉がものすごい。現地では高根の花の治療を惜しみなく受けられる。貧しい現地からすればうらやましい限りだが、案外、国民自身はそれほど幸せだと思ってない。ロージン問題、ロージン問題と言って、何かしら不幸の影に脅(おび)えているようで、不思議である。

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