地元ヒーローの選択に市民ら困惑 中村親方、重傷事故で佐伯市を提訴

西日本新聞 大分・日田玖珠版 稲田 二郎

 大分県佐伯市のPR活動として行った渓流下りで重傷を負ったとして大相撲の中村親方(元関脇嘉風)が市などに約4億8100万円の損害賠償を求めて提訴した。市や関係者は「渓流下りは本人の強い希望だった」として市に責任はないとの姿勢を示しつつ、訴訟にまで発展したことについて困惑を隠せないでいる。佐伯市出身の中村親方は市民栄誉賞を受賞している地元のヒーローで、地域の人々は「市との争いは残念」と肩を落としている。

岩肌を滑る

 中村親方は昨年6月18~23日の日程で、所属する尾車部屋の力士計8人で合宿を実施。合宿は市などでつくる実行委員会が誘致した。20日は朝稽古の一般公開後、中村親方ら合宿メンバーで同市の藤河内渓谷に行き、渓流下り(キャニオニング)を行った。市職員が同行し、インストラクターも付いていた。

 関係者によると、中村親方は力士2人に挟まれる形で水が流れる岩肌を滑り降り、この際に右ひざに重傷を負ったという。自分では動けずにドクターヘリで搬送され、事故から3カ月後の昨年9月、中村親方はけがが完治しないことを理由に現役を引退した。

「止めたが…」

 中村親方側はキャニオニングについて「市のPR活動だった」と主張。市側は「前年は雨天のためにキャニオニングを中止しており、今回はやりたいという本人の強い意向だった」と説明し、オフの時間に行ったレジャーとの認識を示す。

 キャニオニング関係者によると、中村親方は当日、体が大きいためにウエットスーツが着られず、キャニオニングを止められたが、「相撲取りは頑丈ですから」「自分たちは泳ぎもできる」と言って水に入ったという。滑り降りる際には中村親方を挟む形の前後2人はライフジャケットを付けていたが、中村親方は付けていなかった。

 キャニオニングは計7年間で4千人以上が参加しており、これまでにけが人はいないという。この関係者は「水深や水中の岩など地形を知り尽くした上でやったのだが…」と説明。さらに「中村親方は膝が悪かったと事故後に力士に聞いた。事前に聞かされていれば、やらせなかった」と話した。

市民悲しむ

 市によると、事故後は関係者が中村親方側を3回お見舞いに行ったほか、弁護士を通じて交渉を続けていた。賠償請求額約4億8100万円の内訳は、中村親方が40歳まで現役を続けた場合に得られたはずの収入、休業損害、後遺障害の補償、慰謝料など。第1回口頭弁論は11月27日に東京地裁で開かれる予定だ。

 被告は市やキャニオニング業者などのほか、インストラクターら個人7人。その中の1人は「提訴は突然で、しかも個人でも訴えられるなんて」と戸惑う。

 中村親方は現役時代、激しい取り口で人気となり、三賞受賞10回、金星8個を獲得。その活躍に古里の人々は勇気づけられてきた。市民からは「市民思いの中村親方が訴えるのだから、よっぽどのことだったんだろう」と中村親方をおもんぱかる声がある中で、「いずれにしてもイメージダウンにつながる」「法廷闘争は悲しい」との多くの声が聞かれる。

(稲田二郎)

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