「貪欲に被写体に向かう」写真家 今井正雄さん

西日本新聞 大分・日田玖珠版 鬼塚 淳乃介

 カメラを初めて手にしてから70年。「貪欲に被写体に向かっていった」。大分県日田市三池町の写真家、今井正雄さん(84)はその時々に興味を抱いた事象に迫り、レンズを向け、瞬間を切り取ってきた。自宅のスタジオで作品への思い入れを語る今井さん。情熱は今もうせていない。

 小遣いをためて初めてカメラを買ったのは中学2年の時だった。次にカメラに夢中になったのは、結婚して子どもが生まれてから。成長の記録を残そうと、わが子に焦点を合わせているうちに「多くの人に認めてもらえるカットを撮りたい」と写真の世界にのめり込んでいった。

 27歳で初めて出品したコンテストでいきなり入選。アマチュア写真家の仲間とグループを作って切磋琢磨(せっさたくま)し、県美術展で何度も受賞するまでになった。

 有頂天だった30代半ば、師と仰ぐ大分の大崎聡明氏(故人)から頭をガツンと殴られるような言葉を掛けられた。「井の中の蛙(かわず)になるな。大きなものに挑戦し、己を磨け」。被写体の表面ではなく、内からにじむ「何か」を撮りたいと強く思うようになった。

 ダムに沈む集落や、米原子力空母エンタープライズの佐世保港入港など、社会的なテーマにもカメラを向けた。一方、地元の「小鹿田焼の里」を訪れ、陶工が生み出す作品の美しさや力強さに心が引かれた。舗装道路もない昔ながらの地域が「日田の原風景のように感じられ、記録に残したい」との思いに駆られた。

 交流のあった陶工の協力で、撮影に臨んだ。しかし多くの陶工からは好奇の目で見られ、思うように撮れない。暑い日も雪深い日も根気強く通い、陶工たちの話を聞き、距離を縮めていった。心を開いてくれたと思うまで5年かかり、さらに5年かけて撮影していった。43歳で初めて出版した写真集「創(つく)る 陶芸の里小鹿田」がその集大成で、当時小鹿田焼をテーマした写真集はほかにはなかった。

 今、興味をそそられているのは古い仏像。最近では、中津市山国町の小さなお堂にある頭部が焦げた観音像に「心臓がばくばくするほど感動した」。時の為政者に焼き払われかけたが、地元住民たちが阻止したと伝わる。「仏師の思い、像を守った住民、受け継いだ人々。焼けた目に、全ての思いが凝縮されているすごさがある」

 30年前ほどに製材所を退職。数年前には大きな手術を経験し、体力の低下も感じ始めているという。コロナ禍で撮影に出掛ける機会も減った。それでも「撮りたい被写体はたくさんある」。探究心は衰えを知らない。 (鬼塚淳乃介)

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